ひとつひとつを自分の仕事に当てはめて具体的な行動につながる道筋を広げることができる

ポプラ社 Paul Jarvis 『山田文訳』"STAY SMALL" という一冊の本との出会い。この本に書かれている強調太文字をビジネス共通の (タスク 1 ~ 168) と受け止め【学び】で業界の過去・現在を思い起こし、未来の自分と仲間たちの働く袋物業界の未来のビジョンを考えるヒントにしたい。専門的な英単語は原書から引用した。

(1) 規模の規模の拡大は必ずしも利益をもたらすわけではなく経済的にも採算が取れない。自分たちにとっての成功を定義し、それを実現するのは自分たちの責任である。自分たちの仕事と役割を自分たちの暮らしに最適なかたちにする(Meaningful Pleasures in Life)

ほかの人のお金にはその人の意見もついてきてビジネスや生き方に口を挟まれる。

(2) ビジネスでの成功はその人の教育、訓練のレベルよりも弾力性のレベルにはるかに大きく左右される。

【学び】時代が移り変わりビジネス環境が変化する時に柔軟性がなければ学校の成績が良くても、いくら良い技術を持っていても乗り切れないという意味と解釈する。皮革製品を作る技術には『切り目磨き』縁返し』縁返し合わせ』内縫い』など基本的な「まとめ方」があり日本独特の個人の職方がバラバラのパーツを両面テープや接着剤でつなげて大きなパーツにし、部位ごとにつなげて立体化する。

 平面のパーツは平ミシンで縫製し、立体の縫製はシリンダーミシンで縫製するのだが職人の仕事が専門化した結果どんな技法にも対応できる人は数少なく、いわゆるオールマイティーな職人には出会ったことがない。専門化しているのだと思う。市場で売れるものを大量生産した時代にその時々に流行るカタチや仕上げに慣れた結果専門化したのではないかと想像する。

 私の知る限りの東南アジアの工場では複数名のチームの中で縫製業務を担当する人が専門化しミシンの操作全般に費やす時間が長いため、結果的にミシンの操作が上達し、色んな「まとめ方」に対応できる人が育ちやすいと感じた。

『切り目磨き』は立体縫製した後に革のつなぎ目をサンドペーパーまたはそれに類似する研磨道具で面取りして断面を滑らかに加工し、コバ液と言う、分かりやすく言えば絵の具やペンキのような専用の液体で色を塗って仕上げるのだが、乾燥するまでの時間や、乾燥させるための場所が必要なため一軒家で作業する日本の職人宅には向いていない事情がある。

 東南アジアの工場は亜熱帯に位置する国々が多く、湿度の高い場所では乾燥するまでの時間が長くかかるため、原材料が完成品になるまでの時間が他の技法によるものより長いため、結果的に時間コストが高くなり商品の価格も高くなる傾向がある。この問題の解決策はより人件費の安い国に引っ越しするか、湿度を低く抑える特別な部屋を作るか、前者の場合販売先との距離がより長くなるため「運送費」が増加し、後者の場合設備投資と光熱費の増加によりコストが上がる。つまり、工場または職方宅のある場所で相変わらず作り続けるしかないのが現実だ。

(3) 現実を受け入れること、物事はこうあるべきだという考え方は持たない。

【学び】「先入観、思い込み、業界の常識」は仕事の経験が長くなればなるほど知識と経験値としては深まり、自由な発想が出来なくなる。製造の仕事や販売の仕事それぞれに言える事だが、今まではこうだったというやり方が一番正しいとは限らない。時は過ぎ時代は新しく変わるのではあるが、世の中が変わるのではなく、人間が変わり一人ひとりの考え方や生活習慣が変わっているだけである。

 外務省の発表によると2021年には地球には196の国が存在している。かつては Air Mail でやり取りしていた国とも、KDDの交換手経由で国際電話が出来るようになり、自宅から、公衆電話から直接小銭で国際電話できるよになり、テレフォンカードが登場し、利便性が上がり便利にするために様々な製品やサービスが提供されたが、個人が小さな携帯電話持ち歩く時代になり、電話回線ではないワイファイという無線を通じお互いの顔を動画で見ながら話せる時代になった。道具としての機器は形を変え変異したが、「目的」は何も変わっていないことに気づく。

 私が、どこかの誰かと交信し、伝えたいことを自国の言葉、または世界で標準的に使用される簡単な英語、またはGoogle翻訳機などを通して相手の理解できる言語に置き換えて伝え、相手も同じようにするので、相手との意思の同意や相違の確認が出来て、商売をするなら様々な交渉や話し合いでできる時代である。製品化した商品の写真を見やすい本にして価格やサイズなどの特徴を手書きし、販売活動に使用した明治時代と今を比べると、商売するための道具はインターネット販売に変わったが、実物を触って実感できない人に、革サンプルを郵送し確認する商行為が今でも残っていることの方が不思議なくらいだ。

 商人は時代と販売道具が変わっても、顧客のニーズを満たすためには自ら出向くこともあり、それによって訪問販売とは別にネット情報で予備知識を得ることができるようになったことは商品をより身近に感じることのできる良い時代になったと言える。

(4) 目的意識を持っている事である。

【学び】皮革製品歴史を記録している蔵書によると日本には100年以上の物作りの歴史がある。それは日本人特有の物作りの一つだと思うが、それは日本人に限った話ではなく、人類はそれぞれ必要なモノを自らの手で道具を作り、製品を作ってきた歴史がある。日本の皮革製品だから価値があるとか、Made in Japan は優れているとある種の思い込みではなく、食肉の副産物として革を鞣してレザーを作ろうと最初に取り組んだ人がいたおかげで、そのレザーを加工して様々なものを作るきっかけを与えられたに過ぎない。

 雨風をしのぐために家屋を建て、素足で過ごせる畳みを編み、湿度の高い気候風土に合わせて通気性の良い土壁をつくり、お米を炊き上げる かまど を作り生活するために必要なモノを作ってきたに過ぎない。戦後の物がない時代から高度成長と消費社会の時代にブランドまたはメーカー品という概念を知り、ライセンス・ブランドという訳の分からないものの次に、デザイナーズ・ブランドやプライベート・ブランドと次々に訳の分からないものが登場し続けた。しかし、作る事が仕事の職人たちは仕事が十分にあり生計を維持する事は出来た。小売販売のやり方が時代にそぐわなくなった百貨店での販売のみに頼っていた問屋や製造企業は販売先を失い、専属で抱えている職人に仕事を出せなくなり、職人は廃業して仕事を変えたり、廃業して仕事はなにもしなくなるのが現実だ。

 その職人たちが生計を立てて生きていけるだけの収入を得るためにには、日本以外にも販売先を作らなければならない。安価な割りばしは日本では作らなくなった。主に中国からの輸入品に変わった。しかし、高品質で料亭では特別な割り箸を国産で作り続け、割り箸ではなく通常の箸は今まで以上に豊富な種類が開発され選択肢が広がった。安い革靴やサンダルは輸入し、国産のものは東南アジアの製品と比べて抜群の履き心地があるなど品質の違いが見せられるものは日本から東南アジアへ輸出されているのも事実だ。

 お金を入れるものはビニール袋でも事足りる。お金の入ったビニール袋は紙のバッグにいれれば事足りる。バッグや財布が皮革製品であり続ける絶対的価値は存在しない。レザーを使用する利点が何で、それは紙で作ったバッグより高いけれど価値があるなら商品として提案する意味はある。裸で過ごした原始人の時代には必要なかったかも知れないファッションという贅沢な嗜好品が人々の幸せを感じる一つの基準になった現代には、いくつかのポイントを外さなければ価値ある商品として受け入れられる余地は残されていると考える。それを創出するのが販売する場所を失い、ブランド品の下請け業務を失いつつある製造企業の宿命である。企業により経営者の考え方、やり方は違う。

 売れると自信がある商品を作ってもらえれば販売ルートを作る事は商人の仕事だから分業しようて仕事を続けようというのが目的である。

(5) 変化への適応力があることだ。変化が起こるのは避けられない 。

【学び】変化は幾度となく起きて皮革製品を製造する会社と職人は乗り越えてきた。バブル経済の崩壊した時に仕事を失い廃業した会社や職人はいたが、現在仕事を続けている人々は生き残った人たちだ。皮革製品の販売は参入障壁が低いと言われてきた。簡単に言えば、特別な資格や経験がなくても始める事が出来る商売だという意味だ。ライセンス商品を下請けとして製造してた製造企業が消費低迷で注文がだ無くなり仕事を失ったことも珍しい話ではない。その時に諦めて廃業するか、一筋の活路を見いだして仕事を続けようとしたか、しなかったかの違いだけである。

 後継者がいないので廃業したというのは理由にすぎない。変化を予測することが出来れば準備ができる。変化を予測するために考えるか考えないかだけの違いである。一度失われた技術を一から取り戻すことは並大抵のことではない。ある時計を作る企業が、大手ブランドが海外に製造委託して国内生産を止めたことにより多くの時計職人が廃業した。それでも生き残った一部の職人が今では国産腕時計の生産基地となり、外国の顧客かせ直接注文を受けカスタマイズした腕時計の注文に追われているという現実。

 大量生産によるコストと利益最優先の時代から、小ロットとカスタマイズによる商品ニーズに対応できたことが生き延びた理由だ。次に、カスタマイズという狭義の世界でのたたかいが始まっている。大量生産やスピードとは相反する、時間をかけて特別な腕時計を顧客と共に作り上げる時代である。この商売も未来永劫続くとは限らない。時代が変わるのではなく、時の変化に応じて人間の考え方が変わるのである。それを私たちは顧客のニーズと呼んでいる。

(6) 規模の拡大は必ずしも利益をもたらすわけではなく経済的にも採算が取れない。

規模の拡大とは、狭い店舗より面積の広い店舗を新たに始めるという意味と、スーパーマーケットの「まいばすけっと」のような自宅に近い便利なお店(野菜とお肉、刺身が、お酒、洗剤などの水回りの雑貨専門)はコンビニでは当たり前の雑誌は販売していない。地域によっては店舗が競合する場所に出店することもある。今は、お店を一年間に数百店舗作るという拡大路線であり伸びている。複数店舗を開店し拡大路線を目指すこと言えるだろう。注目すべきは、地域の複数店舗の売上と利益をマージンミックスし、販売員のシフトも自由に入れ替えることが基本ルールになっているところだ。

【学び】一つのお店の売り場を広げるというと「まいばすけっと」が「イオン」や「西友」になることであるが、そうではない。売り場面積を広げると家賃が高くなる。その場所に来店してくれる人の数が増えないと売り上げが足りなくなり赤字になる可能性が高くなる。小さな店舗を分散させて各店舗の損益分岐点を抑えることと、入出金システムを標準化して、A店の販売員が翌日B店で勤務しても当たり前に仕事をこなせるシステムをつくりあげた。研修は本部で統一し、そこで獲得した知識と技術はどの店舗でも生かせるのが強みだ。

(7) 店舗を増やすときの注意点

【学び 】店舗ごとに賃借代、光熱費、人件費、商品仕入れコストなどの固定費と変動費によって自動的にはじき出される損益分岐点売上が店舗維持の最低限の条件となり、地域ごとの顧客の違いなどに左右される商品MDを変えなければならなくなる可能性が高い。そして製品開発力が生命線を握ることになる。「まいばすけっと」の場合は雑誌コーナーは置かず、食料品に特化しており、多少の地域差はあるとしても、人々の食生活を支える食料品という意味では一括して仕入れることができるのが強みだ。

 皮革製品は日常的に毎日買うものではない。購入機会を考えると、毎日必要な「新聞」2~3 日おきでも良い卵やパン、日持ちするお米は一ケ月に一度買えばよいなど、購入機会のリードタイムによって出荷する商売を軸に考えると、一年または数年に一度買い替えるお財布や靴。季節ごとに買い替える衣服やTOPに合わせてファッションを楽しむバッグなど消費サイクルが違うのは商品の特性上避けられない。ある家庭では月曜日~金曜日は妻が食材の購入と調理を担当し、週末は夫が担当するとすると、夫は毎週末食材の買い出しに出かけるが、肉は年間通してほぼ変化はないが、野菜やフルーツは季節によって変化が激しい。春には「春キャベツ」や「新玉ねぎ」海水の潮風を受けて育つ静岡や淡路島の新玉ねぎは塩の影響で甘みの強い玉ねぎに仕上がるらしい。夏には夏野菜のゴーヤ、空心菜が出回り夏しか入手できないものなので定期的に購入するらしい。

 スイカは夏の果物だ。ビニールハウス栽培の登場によって年間を通じいつでも手に入る果物も増えてきたが、本来はその季節にしか手に入らない野菜、果物の方が希少価値が高いはずだ。皮革製バッグはひと昔前は秋冬物はお盆明けから販売が始まり10 月頃には販売終了という百貨店主導のMDが組まれていた。しかし、秋冬物の商品とされていた特殊な素材が年間を通して販売できる実証実験も行われ、既成概念による販売時期などは顧客のニーズとは全く関係ないことが分かってきた。買い替え需要時期は季節というより、行事ごとの買い替えのほうが大きいと感じる。しかし、あまりに分け方がおおざっぱなので、個人別購入時期と購入した商品を軸に付随する小物を提案することや、修理体制を充実して買い替えも勧めるというのが現実的である。ある商品が気に入れば、そこにはその素材感が気に入ったとか、機能面を含めた仕様が便利で気に入ったとか、長年壊れず他社品から乗り換えたが、こちらの商品の方が安心だとか、リピート購入する理由があるはずだ。その商品の特徴が圧倒的に優れていた時に全く同じ物を買い替える顧客も大勢いる。

 その商品のファンになってしまった。その商品がいつまでもそこに行けばあるような感じがした。その店に行けば最初に対応てくれた販売員さんにまた会えるとか。顧客の心理が大きく影響することは間違いないだろう。100 人の顧客がいるとお店として100 通りの「記憶」が費用になるが、顧客はあくまで1 人なので1 人が1 つのお店と1 人の販売員を覚えておくのは簡単なことだ。昔々妻にデザイン腕時計を誕生日プレゼントに東急百貨店の1 階売り場で見つけて購入した。数か月後に再来店したが跡形もなく無くなっていた。今覚えば定期的なPOP-UP (催事販売)だったと気づく。それはそれで良いのだが、催事販売以外にその販売会社とつながる術が当時はなく、縁が切れた。催事で繋がりを持ち、その後もつながり続けられるお店なり販売会社の体制がないと催事は一時的な販売機会に過ぎず、SDGsな関係を維持する事が出来ないという例。

(8) 関西MDと名古屋MDを主軸に開発したものを共通MDとしてインターネットでウェブ販売する、東京MD は全国展開する考え方。逆もまた真なり、オンライン販売に適した商品開発を行い店舗では「販売するしないを決める」

【学び 】東京の人は東京以外の都市を「地方」と呼ぶ。地方に住む人々は東京は首都なので東京と呼ぶが、自らの事を地方人とは呼ばない。東京は゛分のいる場所を中心に考えると同様、地方の人も自分のいる場所を中心に考える。東京にしかお店がないというのは、ある種の「憧れ」になる。東京ディズニーランドが千葉にあろうがそれは地方に住む人にとってはディズニーランドなのだ。新幹線で、深夜バスで遊びに行く楽しいアミューズメントパークだ。地方の人にも地方の一番店の百貨店がある大都市もあれば昔々ジャスコというとても便利で価格の安いスーパーマーケットがあったり、経営不振により名前が頻繁に変わったが、大型店としてある程度の規模で今でも存在している。

 しかし、地方店に新店を出店することは大きな賭けであり、百貨店が低迷し、今後も低迷するだろうと予測できる中での出店はまず無いと言える。あるとしたら、地方の老舗専門店など路面店で販売するお店がイメージではないか。大型チェーン店は営業時間などの縛りが強く、自分たちが自由に決めらる事が出来ない。お店を見つけることも大事だが、現代はインターネット販売も可能な時代である。実際の品物を「見て、触って」感じる事が出来ないことが地方うの弱点である。ミッキーマウスのぬいぐるみは地方のスーパーマーケットでも購入できるので今はそれで満足しよう。ぬいぐるみはある程度の想像がつくJIS規格商品なので見ないでインターネット販売で買っても不安はない。お金を貯めてディズニーランドに行ったときは、ミッキーマウス以外にも、ミニーマウスも買いたいとか。

 「その場所でしか買えない」ものを見て、触って買いたいという心理が働くと想像できる。皮革製品であても同様で、一つの取引が成立するとそのつながりが繰り返されるチャンスが生まれる。一度の地方催事で100 万円売る事も悪くないが、一人の顧客に2 万円のお財布を一つ買って頂いて、その数を50 人に増やし、2 3~年に一度新しい商品を提案してつながることのほうが関係は強くなると考える。インターネット販売の難しさは、地方の顧客の声なき声を聞き流し、注文のあった商品の取引を事務的に行うことの冷たさにあり、その冷たさを理解している一部の企業はそのギャップを埋めるために手厚いメッセージを発信しているが、限界がある。それを解決するためには沢山のやり方がある訳ではなく、ニーズの幅を広げゆっくり時間をかけて商品説明し、顧客の想像力を高め安心感を与えるしかない。明治時代にはできなかったネット商談も担当する販売員の数と時間に余裕があれば可能だ。

 顧客が自由にいつでも閲覧できるYouTube動画も店頭で商品説明を受ける代替として活用できる。要は中身だ。百貨店の派遣販売員が行うような中途半端な商品説明など聞いていても意味がない。そこで、各企業の経営者の考え方や販売員の商品知識と人間力がスキルを発揮するのが勝負どころと考えている。

(9) 国を超えた商圏ごとに商品を企画する

【学び】日本市場向けに企画した製品とタイ市場向けに企画した製品をアレンジして両国で販売すると同時に,タイ国原産地の商品と日本国原産地の商品をそれぞれの国から世界に向けて「輸出するか・しないか」を決める事ができる。タイ国でモノづくりによって生計を立てている中小企業の独特な商品を日本のタイ好きな人々に紹介することもできる。(10) ただ、同じようなお店をたくさん作っても必ず利益が増える保証はなく、全体として見た時に採算が取れないことが起こり得る。「まいばすけっと」は地域の中の複数店舗で競合することも承知の上、合計店舗での合計売上・合計利益を経営判断の指標としている。また近いお店の地の利を生かし、販売員の欠勤時のフォローもしやすく考えている。

【学び】 労働労働集約産業とは、人の手で作業する産業という意味で、もちろん革を「手裁ち」するには刀が必要で、刀の種類も近代的なカッターナイフとは違う日本独特の刀があり使い方と利点は異なる。クリッカーで裁断するには抜型が必要になり、抜型をつくるにはコストがかかる。人件費の低かった1985年頃の中国の工場では20人規模の行員が一斉に手断ちで革を裁断していた。20人が型紙で手断ちするほうが抜型を作るより安いからだ。仕様によっては財布であってもパーツ数が多く、手断ちするのは最初のプロトサンプルのみである。量産分は抜型を使用するほうが早く、綺麗に、正確なサイズに裁断できるので機械化している。

(10) 機械化がむずかしいところで強みを発揮する

 一方、特殊な製品の中には量産工程にも手作業加工が必要なものがある。機械化により大量低コストで類似するものは作ることができる。自動裁断して自動革漉き、圧力接着、そして櫛マチ加工まで一貫できるのであれば意味があるが、その工程の一部のみ機械化することは難しい。また古来の製法を日本独自の作り方として職人の仕事を通じて技術を残す目的も含まれている。機械化できることは機械化するというのは極めて正しいが機械化できない作業がいったい何であるか認識して仕事を行うことは競争力であり実力を自己確認するチャンスでもある。機械化できない工程があればそれは設備投資によつて誰でも製品化は可能であるが設備機械の性能の差によってコストの違いが生じ最終的には値下げ戦争に巻き込まれることになると思っている。

 適度な機械設備、つまり人の手で作業するより綺麗に速くできる例とすれば手作業の手縫いよりミシンで縫う方が早くて綺麗である。刻印を手打ちで打ち込むことも出来るが人間の手で行うと力のバラツキによって均一でなくなることもあり得る。一日かけて10個しか作れない手作業を適度な機械化により一日かけて100個作れるようにしてコストを下げて顧客が購入しやすい価格帯で販売する。それはデザインポイントとして手縫いを入れるということとは区別しているので、手縫いがあっても良いのだ。

(11)業界の再編や市場の変化を悲観する必要はない。変化に適応するチャンスなのだ

【学び】 百貨店はなんでもある場所ではなく「色々なものがある」という場所が元々の意味。アメリカの百貨店衰退を見てきた私としては百貨店に対抗する小さな専門店との違いが予測通り悪い方に作用しただけである。つまり開店時刻・閉店時刻の一斉ルール、仕入れのプロであるバイヤーを育ててこなかった。商品知識に乏しく仕入れ先の販売員による販売力に頼り、自分の社員である販売員を育てるより借りた事を選んだ。アメリカの後を追って場所貸しで安定した家賃収入を得る不動産業となった自分たちにとって楽な商売を増やしてきた。

 確かに色々な商品はあるが顧客が探している欲しいものだけが無いという売り場。知りたい説明に対しては中途半端な知識しかなく顧客のニーズに応対できない。いよいよ商品品揃えが面倒になりフロア毎貸し出して家賃収入で自分たちの収入を安定させる方法を選んだ。売り上げが伸びる商品には追加の家賃を求めるずる賢い条件を取引条件に入れてきた。撤退したCD企業ショップ跡が空き地となり新たな借り手がつかず、一ケ月後に空き地に元のCDショップが戻ってきたのには驚いた。どのような条件で再契約したのか知らないが、売り上げが伸びず収入で貢献できなかったのだが、空き地のまま放置もできないので頼み込んで入居してもらったのだろう。人気のないアパートの契約が切れて他に引っ越した住人に家賃を下げるからもう一度戻って欲しいと頼んで入ってもらったような話である。

 OEM製造を受け持ってきた製造メーカーは、百貨店販売の実態を問屋からの情報を推察しそんな実態を知ることになった。自社ブランド企画を始めた製造企業は販売する場所がないので、宣伝広告費と割り切って上代(として販売小売価格)の50%という掛け率で卸し販売し、それも消化取引という不利な条件を突き付けられ仕方なく受け入れた経緯がある。有名な百貨店で購入できるというのは一種のステータスになると割り切った。百貨店への影響力のあった大手の問屋はライセンスブランドを製造会社に生産委託し自分たちで売り場スペースを取り合ってきた。三枝の国盗りゲームと同じだ。問屋との商売を参考に自ら売り場を取り小売りに参加した製造メーカーはそれまでの問屋への卸販売よりは利益が増えたようにみえるが、在庫確認や販売結果などの確認をするために百貨店へ営業に回る仕事が増えた。売れなければ撤退させられる。売れても薄利。商品の独自性により評価を受けて進出を達成した製造メーカーはもっと条件の良い小売ビジネスを模索した。

なぜならば、百貨店は自由に開店時刻・閉店時刻を決められないこと。販売員を出せないメーカーブランドに対しては百貨店が人材派遣会社を設立し、販売員をつけ売上に応じてメーカーに人件費を請求する業界用語でいう「人材プール制度」を始めた。そんな紐帯を利上げが伸びないメーカーは撤退を考えるようになる。百貨店の問題というよりむしろ営業体制を整えられない自分たちの実力不足が原因と考えた。小さくても良い、自分たちで決めて自分たちで責任を取る考え方だ。直営店には百貨店の社内ルールがあるように、地元商店街の一店舗としての役割があり商店街のメンバーでもある。その街の商店街の一員として地元に溶け込むことはお金だけの問題ではなく、そういうお店になりたいといいう「気持ち」が無ければ出来ない事だ。

 コロナ禍による人流抑制、インバウンドの激減など市場の変化により淘汰された卸し問屋、必要とされさないブランド、必要とされない会社がある一方、顧客のニーズをつかみ役立つ商品を企画出来る会社にとっては存続・成長するチャンス」でもある。そして、その為に何をすべきか具体的なプランを言葉にすることが出来て、行動を起こせる一人の経営者がいれば小さくはじめることは可能だ。

(12) 自分の核にある一連のスキルをよく把握しておく必要がある。

【学び】 能力と自由は切り離すことができない。自分には何が出来て、何が出来ないか。私は皮革製品を製造する技術はなく、作る事は出来ない。誰かに頼んでお金を支払って作ってもらう事は出来る。そこに自分のどんななスキルが存在するのか分かっていなければ元の木阿弥だ。つまり、どんなものを作りたいか的確に「伝える」能力=スキルが無ければ、また誰かに伝える仕事もお金を支払って頼まなければならない。日本語を使って日本人または日本語を理解する外国人地ならばとならば自分の言いたいこと、伝えたいことは相手に伝える事は出来るだろう。そこには、専門用語や構造を理解した上での合理性や数字上の論理的な組み立ても必要になるだろう。

 そしてそれらを英語で伝える事が出来ることは私のスキルなのでその範囲の仕事は自分のペースでできるという意味だ。そうでなければ自由が他の人のスケジュールとの調整事になるので自由度が少なくなるという意味に解釈できる。デザインをスケッチできるが、図面で実寸で描くことは出来ないデザイナーがいるのなら図面化するテクニカルデザイナーにお金を払って作図してもらうことになる。作図は出来るが斬新なデザイン力やアイデアが思い浮かばないテクニカルデザイナーが商品を企画したい時は専門のデザイン提供会社にお金を支払ってデザインの原案(デッサン)購入する必要がある。

 私の知る限り1980 年代はイタリアの国際展示会で新しい素材や商品を良く言えば研究し、悪く言えばアイデアを盗んで日本人様にアレンジして商品化することでギャラを得る事が出来た。イタリアでは革の鞣しは若者が憧れる仕事の一つであり、南部のフィレンツェのタンナー地区には歴史のあるタンナーが多いが、北部のコモ湖近くに近代的でクリーンな大型機械設備のあるタンナーも新しい風を吹かせている。自分の専門スキルを正しく理解し、そのビジネスアイデアを具現化するためには何が欠けていて、誰の協力が必要かが分かればお金を支払うことで外注化することができるという話でもある。

(13)ルールを破るのは簡単ではない。

【学び】はじめにルールを学ばなければならないからだ。基本的なルールを理解して守る事は大切だ。ルール違反をして良いことが起きる事も可能性としてはゼロではないが、それはルールほ理解した上で新たなルールを自分で作りその範囲で何かを行ったということになるのではないか。モノ作りの世界ではルールは過去からの経験と失敗を元に先輩たちが決めた成功しやすい「きまり」であり、その「きまり」を守っても失敗することが現実に起きている。言うまでもなくルールを破って失敗したとすると、むそれはルールに従って実行したにもかかわらず失敗したことと「失敗の価値」が全く異なる。既に存在するルールを超えて新しいルールでより良い技法を思い浮かぶこともあるだろうが、それはルールを破る前にルールを学んだ結果得られた成功である、ルールを守って実行し失敗したミスは大らかに認められるべきだと思う。何故ならば人間は失敗するからだ。

(14) 社会全体でも「仕事」はひとつの職場としてではなく、一連の取り組みやプロジェクトとしてイメージされるようになってきた。

【学び】 具体的に解釈すると、製品の特長が昔より細分化されてきたからだと思う。世の中にモノが溢れているというのは簡単なことだが、売れる商品とそうでない商品が混ざってお店に並んでいるからモノが溢れていると私は感じる。携帯電話のない時代にはポケベルが申請んだった。そして携帯の登場により淘汰され消えてなくなった。携帯はガラケイの時代が長かったが、今はスマホの時代。スマホの中にも一般的なモノと赤外線撮影機能のついたハイスペック商品もある。何が売れるか会社全体で考えている時間がないので、その商品が好きだと自称する社員達の中から専門スキルを持つ人々を募りチームをプロジェクト化し開発を進めることになる。

 従業員が大勢いる大企業の場合は社内メンバーでプロジェクトをはじめることができる。社員が数名の町工場でも経営者一人のリーダーシップさえあれば外部のフリーランスや同業社の中にもサポートしてくれる人が現れるはずだ。商品が完成して販売する時にはそのプロジェクトは解散しても良い。普通の会社員はたいてい一つのスキルに特化できるがカンパニーオブワンはたとえ大企業の中で活動する場合でも多くの事に通じたゼネラリストでなければならないのだ。小さな町工場の場合ビジネスの完成形をイメージし、言葉や絵を用いて伝達する力が最初のスキルとなる。

 小さな企業または一人で行う時には、創設者的リーダーはすべての仕事の管制塔として目を配り、仕事のスピードと進捗程度や、その時々の結果を評価することが使命であると解釈できる。つまり、ゼネラリストであるためには平たく言えば「広く浅く」知っている必要があり、特別なスキルを持ち続け、人より多くの情報と知識を持って自ら仕事の結果をより良いものにする必要がある。インターネット販売を行いたいと思うなら、カンパニーオブワンは販売サイトの立ち上げも自分で行わなければならない。しかしそれは時間コストとの兼ね合いもあり、全体を理解しつつ専門家に一部の仕事をお金を支払って外注化することを否定するものではない。

(15)スピードとは、ただがむしゃらに速く仕事をすることではない。

【学び】効率的な仕事とは新しい方法を使って、最もうまく仕事をやり遂げることである。社員の仕事を評価するか否かは「スピード」だと。製品を製造して納品するまでのスピードこそ仕事の価値であると信じる会社の社長さんがいた。私は「良品率」が仕事の成果だと主張した。その上での作業時間による評価がなければ社員は頑張らないと。その人とは全く意見が折り合わず業務支援を続ける意味がないと判断し自ら課題としていた人員育成と会社の黒字化の目途が立ったのでその会社を離れた。

 数年間共にした会社と社長であったが、付き合ってこそわかる事もあると知った良い経験だった。熟年離婚のようなものである。私が辞めた後、私が教育、指導した様々な仕事のやり方をその社長の部下が悪用し、商標無しの状態で輸入しブランド名を偽造し他国で販売し大きな事件が起きた。私の紹介したタイ国の工場の出荷価格をわざと高く設定し、東京に住む外国資本の会社を通じてベトナム生産を増やし、ベトナム工場に恩を売り、タイ国の工場の仕事量を減らした。その後違法に製造した商品を違法に輸入し、金額は定かではないが転売したお金は業務上横領した。

 元々のブランド所有者から刑事告訴寸前にまで発展し解雇されたという話を業界大手のビジネスマンから聞いたときには愕然とした。だが、スピードを優先する考え方の社長が子飼いにしていた女部長だったので、事あるごとに精神的にパワハラで追い詰める性癖のある人だったので、女部長を別のやり方で管理していたらこんな事は起きなかっただろう。

 私とは根本的に仕事に対する考え方が違っていたのだ。また、私の尊敬する別の製造企業と修理業務を行う会長さんとは今でも仕事を通じてお付き合いがあるが、小ロット生産によるリピート生産効果を実践し、100個のものを一度に作る時間を20個のものを5回に分けてつくる作業時間を比較し、良品率と合計作業時間を比較した結果、小ロット生産による繰り返し作業によるロット毎の品質向上効果を含むと、相対的な良品数は小ロット生産のほうが上回り、作業員たちも月曜日に仕事を始めて金曜日に終わらない精神衛生上気持ちの悪い仕事より、月曜日に始めて火曜日に完成し、水曜日に次のロットを始めて木曜日に完成し、金曜日には2回のロットの作業時間から適切人数を割り出し、一日で仕事を始めて夕方終わるためにロットの本数を20本から7本に減らし、作業人数も減らし金曜日は少し残業したが見事に仕事を終わらせる計算式を実践した人がいる。社長より会長が偉いと言う話ではなく、銭金の勘定の好きな社長とモノ作りの現場主義の会長の仕事に対する考え方の違いである。

(16) 邪魔になる人が少なければ少ないほうが良い。

(17) 外部の資金を利用しないほうがすばやく動ける。

【学び】 カンパニー・オブ・ワンとは一人で小さく始め、小さいままで少しづつ成長するビジネスであります。一つのアイデアを市場にデビューさせるために様々な形の製品を役立つ商品にするときに、その製品構成する原材料の仕入れから加工方法などを工夫して顧客に販売するのですが、物事の決定者以外に開発部隊に様々なメンバーがいるために顧客に役立つためのとてもシンプルな発想が作り手の自己満足を達成するために複雑化し、時に出来る事の限界値が新しい発想を制限することにもなりかねません。販売する商品は本来とてもシンプルなのです。働くメンバーのスキルが多様化し製品開発の方向性がブレることは邪魔になることもあります。

 また、「お金を出す分口も出す」ということはよくある話で当たり前の事なのです。外部の資金を活用するとしたら出資金の3 倍の見返りを期待されていると考えるのが普通です。政策金融公庫のコロナ禍支援の一つとして無担保・無金利貸付金という制度がありますが、5 年後に返済しなければならない事に加え、事業の経過観察として本来の仕事以外に様々な報告書の作成が求められます。所得税を原資とした補助金もそれにあたります。補助対象の総額の一部を税金で補助するのですが、返済義務はありませんが手続きには苦労します。自己資金または担保を入れて民間銀行から低金利で資金を借り入れ毎月返済する方が口を挟まれにくいのだと考えます。経産省のお金を活用してビジネスを成長させることは良いことなのですが、返済義務はなくとも「結果」については報告を義務付けられることもあり、うまくいかなかった時には次の一手を攻める時間は報告書作成の時間に変わってしまいます。

(18) 通常企業が成功したり勢いづいたりすると複雑さと規模を増していく製品やサービス、管理の層、仕事のルールやプロセスが増えすぎると衰退につながる。

【学び】革財布やバッグを企画しオンラインで販売するとしましょう。やっと立ち上げたオンラインショップの最初の顧客は自分か家族です。誰~も知らないサイトですから仕方ないですね。少しづつ顧客がついてくると販売数が増えます。でも、毎日棚卸をする必要もなく半期に一度棚卸すれば良いですね。そのうちパソコンで在庫管理をし始めます。最初は簡単なエクセルで十分です。最終的には流行のクラウド管理でスプレッドシートを作り、生産した本数を検品し良品を仕入れ入力し、販売した個数を入力すれば自動的に毎日毎時間の在庫が正確にわかるようになります。

 在庫場所も目の行き届く場所に置けば、外部に倉庫を借りる必要はありませんが販売数が増えるとそうはいかなくなります。外部に倉庫を借りて、第三者が検品するか自社社員を倉庫に駐在させて行うかは別にして、知らない間に出荷されて顧客に届くように変化します。その過渡期にはアマゾンのような仲介企業へある一定数の商品をまとめて送って、在庫管理と出荷管理を委託することもあります。

 一万円の財布は直接オンラインショップで販売すれば一万円の収入になりますが、アマゾンに卸販売するとせいぜい5,000 円~6,000 円にしかならないですね。それはそれで商売だから悪くないのですが、どこの誰にいつ何を販売したかなんてあまぞは教えてくれそうもないですね。売れる確証もなく在庫を積み上げて売りなければ返品してくるとしたらそんな恐ろしい話は聞きたくありません。

 つまり、売り上げが増えるという事は生産数が増えるという事と比例します。企業規模に応じて適正規模があります。「より多くではなく、より良く」に徹することにより自然と規模も大きくなり、無駄な人員は持たず、場合によってはチームを拡大するのではなくアメーバのように小さなチームをもうひとつ作るという考え方です。システムを複雑にせず、シンプルなシステムを複数のチームが共同で使用するほうがいいのです。

(19) 安く、すぐに出来るところまで規模を小さくしてビジネスを始めそれを繰り返せばよい。

【学び】安くとは身近にある材料を使ってという意味。材料を買うためににはお金が必要ですね。大きな革がなければ裁断した残りの歩留まりで小さなキーホルダーを作ってみてはという意味。自分が持ちたい小さなキーホルダーを趣味で作るのも悪くない。シンプルなモノは売れるという考え方もある。大きな鞄をいちから企画するのも悪くないが、革小物、ステーショナリーなどは比較的安く販売できるものなのでギフト需要も出てくる。

 財布をギフトに贈るのは意外と難しい。使う人の趣味が明確に分かっていれば良いのだが、今使っている形の財布以外は使いたくないと思っているのか、形を変えたいと思っているのか本人にしかわからないことも多い。財布を使う人の生活パターンも変化するから的確なニーズを聞ける関係であれば品定ができるがサプライズ的に形を選ぶのはとても難しい。例えば、ペンケースを革で作るのも悪くない。

 ペンにはこだわるのでペンを贈るのは難しいがペンケースならその人の好みも比較的絞る事も出来そうだ。流行のフリクションペンを何本も使い分けている人と有名ブランドの万年筆やボールペンを使う人とは中身の価値が違うから、素材の選定も変わってくるだろう。ペンを入れるだけの機能であれば百均の入れ物でも十分かも知れない。その人がペンケースを開いてペンを取り出すシーンが大事だ。

 手帳も同様。自分が使ううえで使いやすいの大前提だが、ビジネスシーンを思い浮かべると、それを誰かに見せる瞬間も出てくる。40年前に流行ったイギリスのfilofaxの革の手帳は今でも使っている人にはそれなりにしっかりした革でペンケースを提案したくなる。一万円以下の低価格商品もたくさん登場して若い世代や女性客のシェアも増やしているので、そのような顧客へのペンケースはまた違うテイストになるはずだ。それを考え、企画するのは私の仕事ではない。製造企業の仕事である。

(20) 何千もの製品を売っていても5%の製品が売り上げの大部分を占めていたらおそらくほとんどの製品はカットしても差し支えない。

【学び】百貨店はなんでもある場所ではなく、色々なものがある場所だ。店内は品物であふれ見ているだけで楽しくなる人もいるだろう。ウインドウショッピングというのがまさにそれだ。しかしながら、自分が必要としているものが見つからないという事は一度は経験した人がいるのではなかろうか。よく売れる革の財布が5%に含まれるかどうかは別にして、あまり売れない革財布は百貨店にとっては95%に含まれるものと考えることもできる。

 つまり、不要なものとして排除しても百貨店全体の売上にはほとんど影響がなく、むしろ在庫管理をする手間もなくなり売れ筋のフォローに専念できるという理解が出来る。製造企業にとってはいつの間にか製品のskuが増えて一年間に数個しか注文の入らないモノが生まれるという意味だ。なかなか廃止する踏ん切りがつかない気持ちも分かる。財務的に余裕のある企業は在庫を持っている間は廃止して処分することはないが、在庫がなくなって次にもう一度作るかどうか決心しなければならない。時代とライフスタイルの変化により新しいニーズが見つかれは改良して再登場させることもできる。何も考えずにリピート生産するのだけは避けなければ会社は破綻するだろう。

(21 ) 能力と自由は切り離すことができない

学び】自分の得意分野を分かって、人に負けないスキルが何かわかっていれば、それを伸ばせば仕事をコントロールすることができる。企画する創作力であたり、モノを作る手先の器用さだったり、人とのコミュニケーション方法に強く職人を上手に動かせたり、文章を分かりやすく書いたり、それらをまとめて発表する説明能力であったり、担当する仕事と本人のスキルは違うが、共通する事は得意なスキルの頂点を突き詰めることにより仕事をコントロールできなくなることがなくなり、自由を獲得できるという意味だ。

 どの分野を伸ばすかが分かれば、人から必要とされるスキルの組み合わせが分かってくる。高度に発達したスキルを持っていたらどの分野を伸ばせばプラスになり、どの分野は拡張しても意味がないのかわかるようになる。その為には通常キャリアのはじめに上司の管理の元自由とコントロールの幅が小さく弾力性もさほど求められない仕事をする必要がある。

 販売する人の場合、お金の管理、アルバイトスタッフの管理、店の戸締りと安全の確保など販売行為以前の環境整備に始まり、仕事の成果として評価される販売実績のなかで自分はどのスキルが一番強いか認識し、そこを伸ばす努力をするということだ。

小さいからできること (pathway)

(22) 一定額の利益を目指してそれを超えない様にしているのは、自分が望む暮らしを中心にビジネスを組み立てたいからだ。顧客が10人でも、100人でも、1000人でもその人たちに迅速にきちんと対応しなければ、規模拡大やマーケティングのために何をしても全く意味がない。いまいる顧客の役に立つことだけに焦点を絞っている。

【学び】拡大しないと決めた以上、適正の仕事量を維持するために、必要な稼ぎを計算する必要がある。例えば、定年後の再雇用を受けて給料3 割りカットを甘んじて受けるのも一つの生き方で否定できない。東京にはハローワークとは別に「仕事センター」というお仕事探しの頼れる場所がある。定年後に仕事を続けないと食べていけない時代になったが、自分と家族が食べていくために必要な資金を計算しなければならない。

 年金をもらって不足する金額から収入目標金額を立てて事業をプラン化するには小さく始めて続けることはやり易いのではないか。ここで言う話は事業の大きさ=収入目標金額を決めて、それ以上にならないように制限するという意味だ。毎月100 万円の収入を得る必要がなければそれに越したことはない。まずは、毎月5 万円の収入を得る方法を考える。材料を買って自ら製造する場合は自分で作るか専門の人に依頼するかによるが、事業を続けるためには経営に徹し、作る仕事は固定の社員ではなく、スキルの優れた仲間に依頼するほうが身軽に違いない。要は、そのような考え方を共有できる仲間がいて、主軸の収入は他にあり新たなビジネスは続けられる範囲でサイドビジネス化するという意味だ。少しの販売数の向かいの顧客は数名であるに違いない。より多くではなく、より良いコミュニケーション方法とは何かを考え、きちんとした対応を心がけるのが成功の近道だと考えることだ。

(23) 自分が経営する会社が世界で競争力を確保できる規模を割り出し、そこで拡大をやめて、大きくすることからよりよくすることへ重点を移す。スタートアップ・ゲノム・プロジェクトによると3,200もの企業の約74%にあたる2,300社が規模の拡大を唯一の目的として失敗に終わっている。カウフマン財団によると長期的に成功している企業の86%はベンチャー・キャピタルの資金を利用していない。なぜか。企業の関心は資金提供者の関心と必ずしも一致しないからだ。伸びる企業は安定性、シンプルさ、独立性、長期的な弾力性に関心を向ける。人を雇うのは、絶対に必要な時だけだ。小さいままでいることが最終目標

【学び】規模の拡大をやめるという事は、作る個数を制限するということだ。世界中に販売網をめぐらせて沢山販売するためには沢山作らなければならない。食品、栄養サプリなど生活と密接にかかわるもので規格の標準化により安定的に作ることができるもので、機械化により大量に製造するものは別の話だ。ほとんどの場合、それらの物は安価なうえに機能が保証されていることが多く、「飲んでも死なないとか、食べても死なない」ものであり、人間の体に元々ある酵素系の栄養サプリなどは長く飲み続けるために一生のコストとしては相当高くつくが、持病を抱えている人にとっては命に代えがたいのでむしろ飲み続ける。

(24) 獣に餌を与え続けるためにビジネスを大きくしたいわけではない。

【学び】売り上げが伸びてお金が舞い込んでくるともっと欲しくなるのは人間の心理だ。製造を委託している工場も仕事がもっと増えることを望む。何故ならば毎月月末の預金残高が増えて、贅沢な外食の回数も増やせるからだ。

 革財布を企画製造して販売し始めた頃は誰もその存在すら知らず、たまたま購入してくれた人がファンになってくれただけの話だ。しかし毎日3個しか販売がないために働く社員の収入を払い続けることも辛いので一日10個販売するために、今いるスタッフでやりくりできないか、その方法を考えた。広告費をかけると間違いなく売り上げが伸びることは経験して分かった。広告費は払わず、善意の広告で取り上げられることでも「知られる」こととなり、結果的に売り上げは伸びた。

 しかし、「見る目がある人と」そうでない人のバランスが崩れ、「見る目の無い顧客」まで取り込んでしまった結果、販売する必要のなかった人々にまで商品を届けてしまったという話。短期的には売り上げが伸びるが、一度伸びた売り上げの一定割合に本来販売すべきでなかった人が混ざりその売上を維持するむために毎日、毎月同類の見る目の無い顧客の相手をせざるをえなくなるという話。広告を見て購入する人は基本的に「瞬間行動」である。その広告を見て一年間考え、調べた結果購入に至ったとしてらその人は「見る目のある顧客」と言えよう。広告にもやり方がある。製造企業は製品開発とともに広告のやり方によってその企業の温かさや信頼性の伝わり方が異なることを理解して進めるのが失敗しない仕事の進め方だと思う。

(25) スターバックスは原点に立ち戻り、ひとつのことに集中するようになった。より良いコーヒーを提供することだ (Better instead of bigger)。

【学び】スターバックスコーヒーが人気を博したのは、それまで「なかった商品とサービス」だったからだと考える。人気が出て消費者はスターバックスでコーヒーを飲む場面を想像するようになった。スターバックスで今日は何を飲むかではなく、まずは「スターバックスで待ち合わせをしよう」と考えた。スターバックスの成功を見て多くのコーヒーショップが誕生したので売上を作るために売り上げ至上主義がはびこった。

 私はスターバックス研究家ではないので詳しいことは分からないが、スターバックスの復活というテーマで取り上げられたことを整理すると、「国」と「文化」の違いを受け入れて仕切り直したという風に思える。時代はカスタマイズの流れにあるが一からオリジナルのコーヒーを一杯のために作るのであれば私はまずブラジルのコーヒー豆農場を見に行くことから始めるだろう。現実にはそれはあり得ないが、その国におけるコーヒーの歴史は最低限知らなればならない。そして顧客の好き嫌いを知り、大半の人が好む味のレシピを「選べる」ように用意し、場合によっては味の濃さ、温度を調整することが出来ればセミオーダー的に仕上がるだろう。

 革製品の置き換える、一からオリジナルのフルオーダーで財布や鞄を作るのはデザイナーの仕事である。一般の顧客にそのサービスを提供しても無理である。つまり、創造性が欠如しているので「出来ない」のである。皮革製品をカスタマイズして販売するにしても基本となるパターンが選択肢としてあり、組み合わせで遊ぶ感覚や自分だけのものにするためにちょっと一工夫するのは、コーヒーにミルクを入れるか入れないかの自由を与えるのに似ている気がする。

(26) 安いとは思っていなかったが適正価格で売り出したところ需要が上回り仕事が増えた。少しづつ繰り返し価格を値上げして需要と供給のぎりぎりのバランスに到達したところで値上げをやめた。

【学び】生産体制の可能な範囲で対応できることは大事だ。生産管理行う人々も無理なく残業もあまりせずに仕事が回ることはとても望ましい。自由に使える時間が減るという事は、売り上げを作る為の無時間が増えという事だ。例えば新製品の供給以上に需要が起こる場合は、値段が安すぎることもある。無理なく対応できるのであれば良いのだが、「より多くの」ではなく「より良く」と考えるためには限られた時間を密度の高いコミュニケーションに使うほうが顧客の為になるという考え方。

 売れすぎた商品は様々な理由をつけて価格を据え置きにしたりしているが、利益を圧迫し始めると仕事が楽しくなくなり集中力も落ちるという意味。その仕事により関係者が今まで通りの生活を維持できなくなるほど忙しくなったとしたら、無理が起きていると考え価格を上げて購入制限を行うのが良いという考え方。

(27) 小さな会社は単なる起業家の出発点ではない(entrepreneurial start)。新しいタイプの会社があえて小さく出発して小さいままでいる。

【学び】少人数で始めた家業をファミリービジネスと呼ぼう。世界の国の土地ごとに伝統的な産業や文化があり、そこから発生したモノづくりは沢山ある。岡山にデニム産業があるようにイタリアのBiellaはウールの町と呼ばれている。野球のグローブからヒントを得たアメリカのCoachも少人数で始めた小さな会社だった。小さいながらも何代も続くイタリアのファミリービジネスは沢山あるがプラダのように世界的に有名になった企業もある。

 ここで学ぶことはプラダやCoachを目指すのではなく、お手本としてはイタリアのウールの町で何代も続くニットの帽子屋さんではないか。言うまでもなく社長がニットの帽子を編んでいるはずはないが、ビジネスの最初は家族で帽子を編んでいたかも知れない。スキルのある編み手がいれば社長は経営に専念できる。無理のない範囲で編み手を増やしある水準で打ち止めにする。そして、製品をより良くするためにデザイン重視し、デザイナーを採用することとした。しかし規模を拡大し続けるのではなく事業を制限したことにより、チーム組織の肥大化はしなくて済んだ。

 組織を大きくすると、デザイナーが仕事をこなすためにアシスタントデザイナーが必要になったり、商品化の方向性を考えるためのマーチャンダイザーが必要になったり、人件費を捻出するために売り上げが足りない場合は、新規開拓営業マンが必要になってくる。出来る範囲で無理せず小さいままで居続ける良い参考ではないか。ビジネスをはじめるのであるから「爺ちゃん祖母ちゃん」と子供で行う家業の三ちゃん仕事ではない事は当たり前だが、それも衰退し無くならない限り希少価値のあるものとして存在していることも事実だ。

(28) オーナー 1人の会社で必要に応じて数人に業務を委託するだけなのでアイデアを思いついたらすぐにそれを実行に移せる。市場に合うか否かをテストして合わなければすぐに方向転換をすることも可能だ。従業員ゼロで「まともな生活」が出来る時代。「経費=死」

【学び】基本的に最低限の収入が得られる「仕事」を持っている仲間の協業が望ましい。失業中の人と組んではいけない。そして、現在の仕事や経営者との折り合いが悪く今の仕事を続けたくないというネガティブな感情を持つ人と出会ってはいけないし組んでもいけない。あくまであなたが主役のリーダーなのでリーダーが考えるビジネスを実現するために必要な仲間を募り、「考え方の似ている」人とだけ付き合うのが鉄則。デザイン発案をしたらすぐに手元にある革で試作品を作る事の出来るスキルのある作り手がいて、モニター販売して評判が良ければ割合に商売になる程度の個数を作れる工場やチームで生産を行うというイメージだ。

 オーナー自身がデザイン出来ないのであればデザインで勝負するのはあきらめた方が良いと思う。デザインというより機能・センス・カラーなど素材の良さは一から作るのではなく、見本市などの素材から「選ぶ」仕事なのでデザインより簡単だ。その素材をアレンジして特徴あるものにすることでセミオーダー素材となるので、他に真似されにくくなる。その商品が全く売れない時は、それがビジネスの最初の物か、何年か経った時に新製品かによって問題の大きさは違ってくるが、最初の段階の失敗であればそれはむしろ当たり前の結果として受けとめてすぐに改良すべきだと思う。

(29) アメリカでは従業員がいなくても年間1億円稼ぐ会社は2015年に6%増えた。国勢調査局によると、ひとりで働いてまともな生活を送るのが年々容易になっている。

【学び】良い意味でアメリカの自由な発想は先を歩く人として参考になる。1 億円稼ぐというのは現実にそうなのだろうが、ビジネスの種類によって違いがあるのは当然だ。損益分岐点が高ければ高いほど赤字に陥るリスクが高いのは言うまでもない。ここで学ぶことは従業員がいなくてもそれだけの稼ぎができる「やり方」が存在するという事だ。まともな生活ができるというのは、無理せず社会の役に立ち、顧客から満足されて商品価値に対してお金を受け取り生活が出来ているという意味。企業に勤めていてもある日突然会社が無くなりまともな生活が出来なくなる人もいる。そうならない為に、一人で始められる商売の骨格を考えて、できる範囲で努力し顧客に喜ばれる商品やサービスを提供するという事だ。

 

(30) 目標に上限を設けてみてはどうか。

【学び】これはとても分かりやすい話だ。欲張らず食べていける範囲で目標額を設定するのだ。定年後にアルバイトとながら年金受注し、自由時間でスモールビジネスをはじめるのは一つの楽しい生き方だ。毎月10 万円稼ぐと決めたら、まず始めるのだが10 万円稼ぐためには最低3 倍の30 万円の売上が必要になることらに気づくだろう。諸経費・雑費が出ていくのだ。既に存在する法人格の企業の場合も適正規模は決定しなければならない。目標額に到達したら、それを繰り返すという考え方。そして、仕事をしていない時間はそれを楽しむ。人生は思うほど長くない、人はいつかは健康及び寿命が尽きる。

(31) 持続可能な魔法のゾーンがある。

【学び】魔法のゾーンというのは結果を分かりやすく言葉に置き換えたことである。魔法のゾーン以外には、そのゾーンの上と下しかない。上のゾーンとは売上拡大する戦略で規模も大きくなるのだが、働く人の採用がタイムリーに行われなく、人員の育成期間などもズレてロスが起きるという意味。下のゾーンとは、目標とした売上に到達する事もなく、赤字が続き歯車がかみ合わない状態。

(32) 会社を成長させたいと思っているが成長させすぎることも望まない考え方。

【学び】魔法のゾーンにまで成長させたいと考えるのは正しい。それ以下を目標にするのは目標にならないので論外。魔法のゾーンに必要な体制や人員をイメージしそれ以上の売上が作れる時は「イベント企画」や「祭り」需要の特需によるものであれば生産に係わる材料などの変動費の支出はあるものの、固定化する人件費は必要がない。シーズン毎にイベントを企画することは魔法のゾーンには含めない。あまりに当たり前すぎるからだ。シーズンの中で特別な企画を小さな会社にふさわしいやり方で仕掛けることは魔法のゾーンをちょっと抜き出る特需効果があり、「やりすぎない」ことも必要な考え方である。やりすぎると中毒死する場合がある。

妬みは魂の腐敗である


(33) 嫉妬は間違った比較にもとづいた感情でもある。

【学び】ある製造企業の社長は会長が海外駐在で、とある企業の要請に基づき技術指導を行い日本の会社を留守にしていた。社長は持参金として300 万円を出資したのでそれに見合う仕事のチャレンジとして新ブランドを立上げた。元々仕事のセンスと人望がなく以前勤めていた会社でも問題を起こしていた人であった。その社長にはモノづくりの技術はなく技術のある会長に対して嫉妬していた。

 癌を患い死期を悟ったのであるが嫉妬の塊の株券を会社が倒産するために無能な同僚に譲りこの世を去った。その怨念に取りつかれた株券を我が物顔で持ち続ける無能な新社長が会社が倒産させることになりそうであると何度も相談を受けたが、私の言う変革は劇薬であり、いわば部外者の立場としてはそれ以上の手助けを行うことはなかった。亡くなった人に恨みを持ち続けることも意味がない。せいぜい、「飛ぶ鳥跡を濁さず」という言葉を肝に銘じておくこととした。繰り返してはいけない事の一つ。

(34) 内向的で思慮深く、内省的で、落ち着いた人物が率いて経営することも出来る。ハーバー・ビジネス・スクールの研究によると、とりわけ高いスキルを持ち率先して動くチームを管理するときは内向的なリーダーがうまく機能することがある。つまり、大声をあげることもなく世界をよくしようという自分の気持ちに内側から動かされて仕事をしている人たちがいる。社交が苦手でったり他の人をうまく管理できない欠点は足かせにするのではなくビジネスに生かす考え方。

【学び】優しすぎる人であっても、「人が良い」と「良い人」とは違う。「いい人だけどね」という使われ方をする時は要注意だ。そもそも良い人間であるとはどういうことか。分かりやすい話としては、「利他的な心」を用いて説明するのが簡単だ。 

 問題は優しすぎる人の場合に利他の心が重なり、必要以上に丁寧に応対してストレスをため込むことがあるからだ。陽気で快活なリーダーがチームのキャプテンになると現場は明るく活気が生まれる。一方で静かなリーダーがいることも確かで、長嶋茂雄氏的な陽気なリーダーのイメージに対して野村克也氏のような物静かなリーダーも現存した。要は大声をあげて皆を引っ張るやり方ではなくても、合理的で効率的な仕事の進め方を自ら実践し仲間を使いこなす人の方がチーム力を最大限に引き出し、外部のスキルの高い仲間を機能させる時に向いていることもあるという話。

(35) 共通のルール、明確な指示、創造性。共通の枠組みと方針を示す必要がある。
ゼネラリストとして望ましいのはまず専門性を高め、必要に応じて補助的、補完的なスキルを追加していき、最終的に仕事の特定の部分だけではなく全体あるいはほぼ全体を「理解する」ことだ。

(36) リーダーは核になる一連のスキルだけを習得していればいいわけではなく、ビジネスのしくみ全般を把握していなければならない。

【学び】ゼネラリストとも言い換えられる。誰にも負けない優れスキルは必要不可欠。広く浅く色々な事を話せて納得させるのが得意な人は「小頭が良い」と揶揄されるようにそれに当てはまらない。全体の仕事の進捗度から見て、゛とこに問題が起きているか、原因は何かを察知し解決するためにはビジネス全般を把握しなければならないという話。商売をはじめるとは目に見える品物や見えないサービスなど様々だが、「商品」という意味では同じだ。その商品を構成する材料とデザインはプロダクト・デザインと呼んでも良いが見栄えだけのデザインではなく素材に対する知識、加工方法、梱包方法、物流方法などビジネスの「しくみ」を知っていなければ問題解決のためにスタッフや取引先に具体的な指示を出せないという意味。

心理を理解する

(37) コミュニケーション、弾力性、失敗した時に巻き返す反発の力。焦点を絞る。

【学び】コミュニケーションは仕事仲間や顧客との対話に役立つ。弾力性とはある程度予測した問答では対応できない予想外の問題が起きた時に、自分の価値観や経験値を中心に解決に導く人か、それ以外の方法を見いだすかとも読み取れる。ルールを破るのは簡単な事ではないように正しいルールで行って失敗したのか、ルール度外視で起きた問題なのか、または手が震えてモノを落下するような人為的ミスなのか失敗の出方は様々である。

 その失敗を次に生かせるためには失敗をなかった事にするのではなく、失敗をした原因を突き止め、それを防ぐ方法があるのか、ないのか考える事である。モノづくりの場合の失敗には天然素材の裁断の難しさがつきものである。失敗した物をどのように処理するかも大事だ。失敗した商品を大量に倉庫に隠して利益が出た決算時に廃棄する有名ブランドの商品には廃棄手数料と廃棄する製品コストが含まれていることをよく理解する必要がある。

(38) 決断力、決めることにうんざりしてくると望ましくない決定をするようになる人がいる。ストレスになる大きな決定を、処理しやすい小さな決定にすればストレスの少ないかたちで方針を決められる。

【学び】私は今まで勤めてきた企業で経験した部類の会議が会議が嫌いだ。会議で相談事が増えるとろくなことが起きない。会議は物事を決定する場所だ。決定するために歯事前に相談会をすれば良い。それはあくまで相談する時間であり会議ではない。長時間に及ぶと決定事項に対する熱意が薄れてくる。そして間違った決定に突き進んでも誰も異論を唱えなくなった。

 責任の伴わない決定事項であれば責任をとる人が決定すれば良いと考える。そうでなければただの傍観者である。小さな決定事項を最初にいくつか列挙しその仕事に最も向いたスキルを持つ人が誰なのか見極め、その人を中心に意見を聞いて他部門との協業が必要な時は、関係者の仕事の分担を含めて説明し決定するのが正しいと考えている。

(39) 「たくさん」ではなく「よりよく」

【学び】100 個販売するのではなく、10 個販売するために、1個販売するために必要な条件は何か考えること。歴史のある会社は、企業体がある程度大きくなり損益分岐販売個数は自分で決めることが出来なくなる。一人で始める小さな会社は「たくさん」ではなく「よりよく」販売するスタートラインに立って物事を決められるのでチャンスだ。

(40) 目的に合わないものにノーと言うことで、目的にかなった貴重なチャンスにイエスと言える余地を確保できる。

【学び】目的に合わないものにイエスと言ってしまうと変更する事が出来ないという意味。自分は反対だが仕方なく受ける業務がたとえ高額な特別な顧客からの要請であったとしてもイエスと言ってはいけないという意味。例えば、鞄のフルオーダーを行う時に事前に想定されるコストを計算しその10% を前金としてお支払いいただくというルールを告知により伝えて場合でさえ、当日のデザインの打ち合わせ時に、「それは事が起こっていないのにおかしい」などと言う顧客は必ず存在する。

 その時に取引の成立を優先して特別扱いするような間違った決定は絶対にしてはいけないという意味。新入社員がそんな高度な仕事を与えられることはまずないと思うが、上司や経営者の不在時にやむを得ず行う時に起こりがちなリスクである。

(41) 成功」も「失敗」も隠さない。

【学び】文字のごとく説明するまでもなかろう。成功した時には仲間と喜びを分かち合い祝杯をあげるのもよかろう。ただし、成功した理由は必ず成功の理由を自分たちなりに整理し書き記す必要がある。何故ならば「失敗」の原因は誰の目にも明らかであるが成功した時は理由が分かりにくいことが多いからである。次に新しい取り組みを行う時、成功と失敗のギリギリの線で葛藤する時に責任者は判断を迫られるが、その時に成功体験の理由が判断のヒントになることがあるからだ。

(42) 人間はみんな不完全だ。それを認めればリーダーは万能でなければならないという考えを打ち壊し修正する事が出来る。

【学び】リーダー自らこのことを仲間の前で定期的に宣言する事には意味がある。リーダーの謙虚な人間性は同様に仲間自身が不完全てるあると認識する機会を作り難しい作業を行う時に、より慎重になるだろう。それが出来ないスタッフは不完全ではなく、ただの馬鹿だ。

(43) リーダーは感謝を示す必要がある。それにより共に働く仲間に感謝しリーダーシップの「権力の腫瘍を治療」できるのだ。

【学び】リーダーが感謝するのは部下や同僚だけではない。一つのアイデアを具現化する時に大勢の人手に支えられて物事が進む。せっかく完成した商品であっても納品する時に立派な化粧箱がなければ納品出来ない。箱を作る外注先は当たり前に手伝ってくれている訳ではない。その商売が完了する最後の砦と考えれば、なくてはならない存在だ。

データを見てそれを人間の経験に当てはめることができる人がいる


(45) 購買者を増やそうとするよりも、購買動機から離れて購買しない人の数を減らすほうが多くの利益を生む。

【学び】実店舗を持つ製造販売会社は現場の実体験的な販売手法に魅力を感じている。オンライン販売も伸ばしたいと考えウェブサイトの充実を計ってきた。広告を出すと確実に認知度が上がり注文が増えることは実証された。しかし行き詰まるのは顧客を集める事を優先しながらもどのような顧客を求めているのか、あるいは獲得したあとの顧客にどのような体験をしてもらいたいのかはっきりしていないからだ。実店舗には通りすがりの人が気にしながら中をのぞいて、見てるだけのひと時から、商品を手に取り感触を楽しむ段階的な体験ができる。

 すぐに購入してもらえるか販売者は気にしてはいけない。お祭り、遠足、運動会と同じで当日までに「準備」が楽しいのだ。遠足は晴れてさえいればいい。仲の良い友達が全員そろっていたらいう事はない。ついでにお弁当が遠足特別バージョンなら更にうれしい。遠足の準備は決められた予算の中で「お菓子」を購入するドキドキ体験だ。限られた予算の中で、年に一度の買い物をするのだから時間をかけて楽しんでもらえるのは有難いことだ。

 オンライン販売はそう言った一見無駄な時間が一方通行により顧客が調べて想像するしか出来ないのがネックである。そのことの本質を理解してオンライン販売を広げるのは賛成だが、広告頼みの売り上げ拡大路線は反対だ。理由は、「見る目のない人」が制御不能な中で増え続けるリスクがあるからだ。ネット会員を増やすことばかりではなく、ネット会員になった人を惹きつけ、失わないために時間を使う事のほうが効率出来だと思う。

(47) 新規の顧客を獲得するには既存の顧客を維持する5倍のコストがかかる。

【学び】専門的な数字は著者の言う通り信じる事としよう。私たちが注目すべきは「既存の顧客」の人数を数えて何人の人がいつ頃の購入実績があるか。例えば10 人の顧客をフォローし気にして置くことは50 人の新規獲得顧客を得るためにかかる時間を計算し、その20 %以内で別の商品を購入してもらえるか、口コミなどにより新規の顧客を増やすことに協力してくれたかどうかを気にしておくことではないか。

 50 人の新規獲得を焦ると「見る目のない人」が混ざってくるリスクもあるので最終的に「いい顧客」になってもらえる数が50 人未満の場合、不発に終わる人は歩留まりロスと言えよう。

(48) 拡大に集中せず規模を小さくとどめておけばビジネスの核にあなた自身の誠実さと個性を保つことができる。

(49) アイデアの最小バージョンで始める それを直ぐに実行に移すための方法を見つける。
フリーランスになるために何かをやめ新しく始めるときにすることは、オフィスを借りることでもなく、名刺を作る事ではもなく、知り合い一人一人にメールを書くことは準備が整っている事を伝えることで意味がある。


(50) 人目に付かないところで小さくはじめるのはこの上ない望ましいやり方である。経験を積みビジネスのアイデアを試すことができるからだ。それにうまくいかなかったときの目撃者が少なくて済む

本当に「必要なもの」とはそれがなければアイデアがそもそも成立しないものだ


(51) 今すぐに今すぐに始められる規模にアイデアを縮小するということ、それはすなわち手元にあるものを使い自分の能力が及ぶ範囲でできることをして、すぐに人の手助けをするのに集中するということだ。

(52) アメリカのソフトウェアBALSAMIQが成長しているのは、ただ良質のソフトウェアを作るのに集中しているからだ。

(53) 衣料品とアウトドア製品販売のパタゴニアは鉄壁の保証を設けることにした。無期限に返品と交換を受け付けるようにしたのだ。

(54) 大きくならない会社、あるいは極端にローベースで成長する会社のなかでは、どのようにキャリアアップてればいいのかその。その場合影響力の範囲を広げることと権限を強めることがキャリアアップになる。

(55) 基本的に一つのプロジェクトでそれに最も適した者が意思決定を行う。

(56)何のためのなんのためのビジネスか。

(57)目には見えないその目的がつねにビジネスを動かす。

(58) 生産数を減らして長持ちする製品を責任をもって作ることにより高い価格で売る。

(59) 大きなものから小さなものまでビジネス上での意思決定をすべてフィルターにかけ。誰と仕事をするのか、何を目指すのか、時間とエネルギーをどこに集中させるのか、顧客誰は誰なのかを考える際の軸にする。

(60) 従業員は仕事に行くときに自分の価値観を家に置いて出る必要がない。

目的を土台にして価値観にもとづいて動く企業は、そうでない企業と比べて株価で12倍もの好業績をあげる


(61) 目的をでっちあげることは出来ない。あなたの本能と顧客がそれを許さないはずだ。

(62) よく調和のとれた共通の目的があると会社は本来の方向へ向かうことができる。そこでは意思決定がしやすくなってチーム・メンバーの定着率は高まり、顧客とのつながりも強くなる
正しく考えなければ「情熱」は役に立たない。

(63) 問題解決や何かの改善に集中していれば情熱はあとからついてくる。

失敗するときはそのビジネススキルには需要がない。

(64) そのスキルにお金を払ってくれる人がいるかをテストしないまま膨大な時間を割いてサービスを売り込もうとして成功しない。

(65) 情熱と勇気は自分でコントロールすることができない。需要がある何かをうまくできるようになるほうがはるかに簡単だ。

(66) どのような仕事でもやりがいのあるものになりうる。

(67) 仕事における情熱はまず価値ある一連のスキルを身につけ仕事に精通する事から生まれる。

目的に合った仕事の時間割をつくる

(68) チャンスは魅力的な仮面をかぶった義務に他ならないる。

(69) マイクロソフト社の研究によると同時に二つ以上のプライオリティに集中しようとすると生産性が40%以上も下がると言う。

(70) 作業が中断されるたびに、それを完全に再開するまでに平均で23分15秒かかる。邪魔が少なければスピーディーに仕事をこなせる(カリフォルニア大学情報学部) あなたの時間を求めてくる人に、何ができて何ができないのかはっきり告げることが重要になる。

(71) 似たようなタスクにまとめて取り組むことで、短い時間で多くの仕事をこなせるようになる
時間の制約があり忙しすぎて考える時間がなく、やらなければならない事を事をこなすのに四苦八苦していると人は悪い意思決定をすると言う。週に数時間だけでも空き時間を確保すればビジネスの実際の動きについて大局的な見解や戦略を持つことができるようになる。 フォード社は一日を「睡眠」「仕事」「家族」の三分割にし一日8時間働く事を始め、それが浸透したが8時間働く中で4時間でこなせる仕事なら残りの時間は無駄な事をしている。
労働時間が週に55時間を超えると集中力が劇的に下がる。

個性を隠さず顧客と結びつく


(72) スキルやスキルや専門性は再現できるが、あなたの個性やスタイルを他の人が再現するのはほほせ不可能だ。

(73) マリー・フォルレオは他とは違う自分の個性を前面に押し出しそれを中心に数千万ドル規模のビジネス・トレーニングを行う経営している。ビデオや文章で癖のある自分を見せることに不安を覚えていた。ビジネスの中ではそれは普通だとは思われていなかったからだ。ただおかしなことに顧客が強い結びつきを感じたのは、まさに癖のある彼女自身だったのだ。

(74) ブランドの個性を「芝居を打つ」ことと混同してはいけない。ターゲットとなる顧客が魅了されるかたちで、ありのままの自分のいろいろな面を示すということだ。

(75) 情報だたけでは退屈になる


かつては売り手がすべてのルールを決めていたが、いまは買い手が何を、どのように、いつ欲しいか決める


(76) ブロガーが(アンバー・カーンズ)アーバン・アウトフィッターズのデザイン盗用疑惑をツイートした結果信頼が失われ瞬時にして17,000人ものフォロワーを失った。

(77) 強い会社を目指すならピスタチオ・アイスクリームになる必要がある。良くも悪くも人はピスタチオが大好きか、その不気味な緑色と風味が大嫌いかのどちらかだ。
自分の個性を戦略的に利用できるようになると競争の激しい市場でそれを有利に活用できるのだ。バニラ・アイスクリームに500円払うのではなくピスタチオアイスクリームに2,500円払う人が出てくるのだ。

(78) 「中立」であると高くつく。

(79) あなたが自分の考えを旗のように高く掲げていれば、人はそれを見つけて集まってくる
大胆に打ち出すことで、それは無視できないものになり、あなたの仕事はただの仕事ではなく、真剣な理由があってそれをはじめたことが伝わるのである。

(80) フリーサイズ」アプローチがうまくいく事はめったになく、凡庸なもの(バニラアイス)が生まれることが多い。

(81) 記憶に残る物語の多くでは、主人公が敵と戦う。魅力的な物語を語らない企業は退屈ですぐに忘れ去られるバニラアイスクリームになりかねない。
怒りっぽい顧客やすぐに苦情を申し立てる顧客は欲しくない。その人がお金を払う人かどうか確認する。答えはノーだ。顧客が自分で自分をふるいにかけてくれるわけだ。そのおかげでお金を払ってくれる顧客とふるいにかけられて顧客になってくれる可能性のある人たちに、時間とエネルギーを集中できる。

(82) あなたの考え方を商品と同じくらい売り込むべきだ

従業員やオーナーがわざわざ親切にしてくれるとうれしいものだ

(83) 人間同士のつながりが感じられたり、会社が問題を認めて無理をして解決してくれたりすると、とても記憶に残る。

(84) 顧客満足を25年間研究してきたルビー・ニューウェル・レグナーは企業に不満の声を伝える顧客はわずか4%にすぎないと言う。不満を持った顧客の91%は二度と戻ってこないだけだ。

(85) あらゆる代償を払ってユーザーを増やそうとするのをやめ、いまいる顧客を維持し喜ばせ、手助けすることに集中すべきだ。長期的にはこのアプローチはコストを大幅に抑えあなたの会社にはるかに大きく役立つ。

(86) 人がお金を使う先を選ぶときカスタマーサービスはきわめて大きな差別化要因になる。顧客の役に立つことができれば、その顧客はあなたの会社のブランドをほかにも広めてくれ。要するに無償の営業陣ができて、スタッフをさらに雇わなくてすむわけだ。

(87) マッキンゼーの調査によると70%の購買体験が具体的な商品よりも顧客の感情に基づいてなされている。ずば抜けていい扱いを受けたと感じると二度目の購入や更新をしてもらいやすくなる。

新しい取引のうちなんと83%が口コミの紹介によるものだ


(88) 紹介が信用できるのは信頼する人が特定の企業や商品を信頼しているからである。話している相手を信用しているから企業や商品にもたちまち信用を抱くわけだ。

(89) 大事にされた人がほかの人にもあなたのことを話す。

(90) 「お客様は大切です」という単なるリップサービスとは異なる具体的なカスタマーサービスは耳を傾けて理解に向けて動くと言う戦略を実行に移すことだ。

(91) サチューセッツ工科大学のエリック・フォン・ヒッペルが示す数多くの研究成果によると利益につながる企業内でのイノベーションの多くは顧客から生まれている。 その利益は60%上まわる。

(92) 全力を尽くして並外れたサービスを提供すれば顧客が忠実で熱狂的なファンにかわる。顧客の満足が新しいマーケティングなのだ。

(93) 企業が顧客を人格のない注文や取引として見ていると、その関係は劣化し最低限の支出でどれだけ顧客からお金を引き出せるかにもっぱら目が向くことになる。顧客との関係を相互に利益のある長期的な関係としてとらえる企業は顧客が成功した時に成功する。顧客の成功を運任せにはしない。

(94) 小さすぎる顧客はいない。

(95) デザイナーズブランドのTシャツなどを販売するUgmonkはシャツのサイズが合わなかったり注文に問題があったりしたら新しいシャツをすぐに送って最初に送った商品の返送は求めない。

(96) 顧客が助けを求めているとき、その根底にある理由は必ずしも明確ではない。具体的な答えを求めているときもあるが、自分たちで意識しないまま何かを求めていることもある。見栄えの良いホームページ制作の依頼を受けた時、見栄えの良いものが欲しいのではなく集客を増やし利益を増やす収入サイトが欲しいのだ。

(97) 顧客は完璧を求めてはいない。

(98) まちがいなど起こらないというふりをするのは現実的な戦略ではない。より現実的なのはまちがいが起こったときのプランを用意しておく事だ。

(99) 2015年のニューヨークタイムズによるとミスを隠さずに患者に謝罪する医師は間違いを認めない医師よりも医療籠で訴えられることがはるかに少ない。誤りを認めることには強力な効果がある。それは共感、問題を認める姿勢、改善への意欲を示す。

(100) 商品について過大な約束をしたり偽りの情報を売り込んだりしても、いいことはない。約束を守るための第一の戦略は顧客に対する約束の数を減らして質を高めることだ。約束は小さくして期待よりも大きな成果を出すべきだと考えている企業は期待通りの成果すら出せない事もある。第二に約束を記録に残すことで約束をしたあとの経過を追跡す必要がある。
約束を破るとその影響は外に向かって広がっていく。宇宙が広がり続けているのと同じだ。

小さいまままで多くの人に届ける仕組み

(101) 外回りの営業担当者を置く必要がないように「ソーシャルメディア」「有料広告」「ニューズレター」といったオンラインの手段に集中している。製造を外注するのは深いかかわりのある工場だ。少ない数から大きな数まであらゆる規模の生産に対応してもらえる。配送とサービス業務も信頼する企業に外注している企業を目指す。

(102) 一対多数の関係をつくれるので多くの人にアプローチするために人を増やす必要はない。ただしメッセージとポジショニングの精度を上げていくだけでいい。

(103) 管理があまり、あるいはまったく必要ない商品をつくることを第一のルールとし、提供するものすべてに一回限りの料金を徴収することだ。

(104) 継続して行うのではなく、短時間で行動し、経費を節約して「何より研究・執筆・情報発信」などやりたいことに取り組む時間をつくることに役立っている。どんな商品をつくれるか、どんなサービスが提供できるかと考えるのではなく、「どんな生活を送りたいか」「どのように毎日を過ごしたいか」をまず考えるべきだ。

ブランドと工場の望ましい関係 

(105) 人間よりも人間よりも利益の最大化を優先する道徳的にいかがわしいグローバル・ブランドから人が離れつつある。

(106) 着古した服は最終的にガレージで雑巾として使われるのが理想だ。原材料を製造する会社・人、材料を加工用に作り変える会社・人、製品に仕上げる会社・人の仕事が最大限に活かされるのがサスティナブルである。

(107) スロー・ファッションを提唱し、粗悪品を大量生産するとに反対し、納品までには時間がかかるが、それでも顧客はよろこんで待つ。

正しいメールを正しい人に正しいタイミングで送る

(108) 小さな小さな会社はメールやニューズレターの自動化に大きく頼っている。データ&マーケティング協会によるとそれらの投資利益率は3800%にのぼる。規模を拡大することなく多くの人に届けるのに有効な手段といえる。

(109) メールのような連絡手段では内容を個人に向けてカスタマイズしたり細分化したりするのが鍵になる。すでに商品を買っている顧客に売り込みのメールを関係ないメールをむやみに送り付けることになる。Mailchimpのようなツールがあれば送信先をフィルターにかけてターゲットを絞り込むのに役立つ。

(110) キャンペーン・モニター社の調査によると「件名」を個人向けにカスタマイズしたメールはひらいてもらえる可能性が26%高くなる。

(111) 商品の購入直後に自動メールを送ればその商品の最もいい使い方を示したり、よくある質問への回答を載せたりして、カスタマーサポートのリクエストを大幅に減らせる。入口のプロセスをほぼ自動化し、自動メールによってサービスと価格の情報を示して、相談の日時を予約出来るようにしたら、仕事としてお金を払ってもらえるようにするまでにかかる時間を8~16時間からたった1時間に減らすことが出来た事例がある。

(112) オンラインとオフラインを効果的に切り替える リアルタイムのチーム全体の連携はブレインストーミングをしたり問題解決をしたりする必要がある時には役立つが、それを四六時中求められると完全に邪魔になる。

(113) プロジェクトをすすめるのに複数のチームメンバーからインプット(意見や提案)が必要な時に短時間にスピーディーに意見をまとめて決定する「Hackathon」による集中連携の後は、メンバーは各自自分の仕事に戻る。

(114) ずっとオンライン状態で、つねにつながっていて、細切れにメッセージが届き邪魔される環境から、はっきりと決められた時間のなかでともに働いて大きな仕事を成し遂げるやり方へと移行する必要がある。

(115) 知ってることはすべて教える。自分が情報を提供している相手、つまり本当に自分から話を聞きたいと思っている人にものを売る方が、自分の事を知りもしない人をオンラインで呼び止めようとするよりはるかに効果的だというとだ。

(116) 自分が売る商品が相手のニーズに合っていなければ、それも知らせなければならない。
小さな会社が他から抜きんでて顧客を獲得するには、競争相手より規模を大きくするのではなく、競争相手よりたくさん教えてたくさん共有しなければならない。

(117) 第一にあなたのことを「教師」と考える人たちと関係を築くことで、その分野の専門家とみなされるようになる。第二に、あなたが売っているものの強みを示すチャンスができる。あなたが電気自動車を売っているなら、その利点「ガソリン」を買わなくてすむことで一年間でどれだけ節約できるか、ガソリン車よりどれだけ安全か、どれだけ環境にやさしいか、などを説明することで過剰に売り込むことなくあなたから買うべき理由を示すことができる。第三に、新しい顧客に製品やサービスの最適な使用法を教えたり、最善の活用法を利用して最も成功する方法を示したりすると彼らが長期的な顧客になり、いい経験をしたと他の人に話してくれる
最後に、情報を教えることが小さな会社にプラスになる理由は、一部の機密情報(これから実行するアイデア、戦略、特許など)を除いてほとんどのアイデアやプロセスは厳重に隠しておく必要がないからだ。

アイデアは隠すより共有して実現したほうがいい

(118) アイデアは通貨として有効ではない。

(119) ビジネスでは実行のみが唯一有効な通貨だ。知的所有権を保護するのは重要だが一般的なアイデアを守るのは重要ではない。アイデアしかないのならまだ仕事はしていないということだからだ。

(120) 利益を上げる巨大グローバル企業の多くは古いアイデアをとてもうまく実行に移した会社だ。アイデアを共有しないで守る事に時間とエネルギーを費やしていると他の人から批判的なフィードバックをもらってアイデアに磨きをかけることができなくなるおそれがある。

顧客教育という新しいマーケティング

(1232) つまり、知識のある買い手になってもらうよう顧客に知識、スキル、能力を提供することは、販売サイクルのなかで最も重要な部分の一つだ。たいてい私たちは商品にあまりに近いところにいるので他の人もその商品を詳しく知っていると思いがちだが、ほとんどの場合そんなことはない

(121) その結果その会社は提供する商品の良い点と悪い点について知らせれば知らせるほど顧客はその会社(店)のことを信頼して会社に忠誠心を持つようになり、わざわざ情報を提供してくれることに感謝することがわかった。

(122) 顧客教育というマーケティングの新形態にビジネスは注目しておかなければならない。
売りつけるのではなく、役立つことを教える。顧客を教育することであなたに能力があることを一貫して示し、顧客があなたの考えを尊重してそれに価値を見いだす環境をつくるということだ。

(123) 何も隠さず、何も例外にしない。

信頼の為の戦略

(124) オンラインでものが買えるようになり消費者がレビューできる時代 商品を検討したり、試したり、買ったりする人の傾向が信頼と深く関係していることがプロの分析によって認知され始めた。

(125) 満足した顧客をフォローする意味 調査会社ニールセンによると92%の消費者が、ほかの広告よりも家族や友人からの推薦を信頼するテキサス工科大学の研究によると83%の顧客が商品をほかの人に紹介しても良いと思っているが、実際に紹介する人は29%にすぎない。ほとんどの企業は満足した顧客が商品を積極的にわかにすすめてくれるチャンスを逃していることになる。

(126) 金銭インセンティブを提供するとただ利益のために商品の販売促進をしていると思われて、信頼を損ねることがある。

(127) 商品を商品を売った1週間後にメールを送って満足度を1から10までで評価してもらう。その後7以上の評価をしてくれた顧客だけに二度目のメールを送信してインセンティブをつけて週品を売り込むという手法もある。

(128) マーケティングを考えて活用する必要がないほど優れた企業や商品は存在しない。商品がどれだけすばらしくても、しかるべき人に届かなければビジネスを続けることは出来ないのだ。

(129) 対象者を具体的に絞れば絞るほど、その集団にものを売りやすくなり、高い値段をつけらける可能性が大きくなるのである。

抜群の「信頼」で差別化する

(130) 新規顧客の獲得よりも満足度を最優先させることでインセンティブを与えて口コミであなたのビジネスを伝えてもらう事で販売促進にかけるお金を減らせる。10億回のコンテンツ閲覧を目指すのではなくニッチな分野で顧客とのつながりを獲得するほうが重要で費用もはるかに安くつく。

(131) 信頼は売るものだけではなく、売り方やサポートの仕方の全ての側面に完全に組み込まれていなければならない。

(132) 小さく始めて繰り返す Ugmonkは4つのデザインとわずか200枚のTシャツからはじめたので少額の借金を返済した後すぐに利益を出せるようになった。
まずは小さな規模でお金を稼ぎ、顧客からの需要にもとづいてそれを繰り返して事業を大きくしていく方法がわかったからだ。

見込みではなく実際の利益で動く 

(133) Minimum Viable Profitはいわゆる損益分岐点とも言えるがそれが低ければ低いほど早く成功に到達できる。出来るだけ早く発売し核になる商品だけに集中して出費や経費を減らし、まずあなたのビジネス・モデルを小さな規模で機能させるのが重要だ。

(134) 意思決定は、見込みの利益ではなく実際の利益に焦点を合わせて行うべきだ。ゼロから徐々に大きくなってくるので成長ははるかにスローペースだシンプルなものは売れる。

(135) 商品の最初のバージョンを発売するときには、多くのことが推測の域にとどまっている。市場のどこに位置づけられるのか。ターゲットにする人たちにどれだけ届きやすく、注目をひけるのか。人がどれだけそれを買う気になり、いくらなら買うのか。こういったことはすべて推測にすぎない。しかし、さいわい最初のバージョンを発売したらすぐにデータが集まってくる。

(136) 商品を発売するときは、種類をシンプルに、メッセージをシンプルに、対象者をひつの集団に絞り込んでシンプルにすべきだ。既存のものを土台にするというのは、すでに存在して理解されているコンセプトの上にものを築くということだ。

(137) 投資家からの資金調達にかわる手段としてクラウドファンディングが新しいビジネスの間で広がっているのは驚くべきことではない。ベンチャーキャピタルの資金よりはるかにアクセスしやすくアイデアを 未来の顧客に直接伝えることができるからだ。

(138) イエール大学で経営学を教えるオーラフ・ソレソンの考えではクラウドファンディングは消費者向けの商品に適した手段であり、企業に焦点を合わせた商品で成功する可能性は低い。

(139) BetterBack社のCEOキャサリン・クリュッグは既存テレビの出資を辞退しクラウドファンディングでデスクワークで腰の問題を抱える人に向けた商品を開発販売した。クラウドファンディングは女性起業家が資金を確保する理想の手段だと考える。多額の資金は必要ない 
ビジネスや商品のアイデアを実行に移すのに多額の資金が必要なら、そのアイデアは大きすぎるか複雑すぎる可能性がある。

(140) 小さな規模で始めることで小さな会社は、いま目の前にいる人たちの問題を解決するのに全力を尽くせる。商品をつくるのではなく、まずはアイデアをサービスとして提供すれば、すぐに出発することができる。すぐに市場に出し、何度も軌道修正する。

(141) LinkedInの共同創業者リード・ホフマンは、商品の最初のバージョンを恥ずかしく思わないのなら、それは発売が遅すぎたのだと言う。ただ発売できるものから出発したということだ。

(142) 昔はテクノロジー企業とそうでない企業に分かれていたが、今はすべとの企業がテクノロジー企業だ。

(143) 最初に発売したものは普通は驚くような成果にはつながらない。それから学んだことをもとにして商品をもっとよくすることに力を注げばいい。繰り返し手を入れて再発売することで、もっといい成果を上げられるようになる。

(144) もしもしのアイデアはやはり有効で、なんらかのかたちで利益を生むことができ、それを継続する価値があると考えるのなら続ければいい。そうではなく、多くの時間、エネルギー、熱意を注いだからというだけの理由で続けているのであれば、それは理にかなっていない。

(145) 成功した創業者のほとんどは、何度か事業をあきらめている。それどころか、失敗したときにあきらめることで、成功へ導かれていったのだ。

(146) お金が底をつき仕事が進まなくなった時に、お金をかけて新しく人を雇うのではなく、お金をかけずに多くの人に届ける仕組みをつくり、仕事の割り振りを変えたのだ。

間関係の目に見えない価値


(148) 強引に売り込むのではなく、互いに共有する関心にもとづいて人々と長期的な関係を築くほうが良いと考えられる。

(149) すでに関係を築いた人たちにものを売れば、はるかに簡単だと気づいた。

(150) 顧客に教え、力を与え、顧客の暮らしやビジネスにプラスになる事をしていれば、あなたは信頼できるアドバイザーだとみなされる。そして、頼まれなくてもおもしろい仕事をしている人をほかの人に紹介するようになる。消費者は、それが正しいかどうかは別にして、大きな会社より小さな会社を直感的に信頼する。

(151) 小さな会社は、顧客を名前で呼んだり顧客に直接語りかけたりして個人的なアプローチを活用できる。中小企業は大企業のように振舞いたがる傾向にあるが、これはおかしなことだ。むしろ最近では多くの大企業が中小企業のように動こうとしている。
小さな企業は小さな企業であることを受け入れ、それらしく振舞う必要がある。それは誇りと言ってもいい。

顧客と長期的な関係を築く必要

(152) 商品を無理やり買わせることはできない。本当の人間関係をお金で買う事はできない。

(153) Growth Hackingの考えによるとユーザーの使用するデバイスにあるアプリをつけて、そのアプリを使い始めたら自動的にメールが送り付けられるしくみを開発したが逆効果を招き考えを改め顧客に素晴らしい体験をしてもらった結果として会社が大きくなるべきだと考えるようになった。

(154) 顧客リストを購入して商品を売りつけるのではなく、商品の良さを丁寧に説明し顧客を増やした結果自分たちだけの顧客リストとともに会社が大きく成長するものだ。

(155) 人間関係に目を向ける企業と、もっぱら規模の拡大に集中する企業の違いは、前者がほんとうの人間関係はゆっくりと、意味あるかたちで、あまり人が入れ替わることなく築かれるものだと理解している点にある。


社会関係資本を貯金する

(156) 資本とは何かをするときの元手である。金融資本、人的資本、そして社会資本である
社会資本があれば、あなたにとってプラスになることを人にお願いできる。小さな会社は社会資本を銀行口座のように考える必要がある。社会資本は預けた分しか引き出せない。自分の会社の宣伝をするばかりだったりすると残高はゼロになり、すぐにマイナスになる。

(157) ものを買って欲しいとお願いするずっと前から社会資本の口座にお金を入れて残高を増やしておかなければならない。できるだ多くの人の役に立ち、価値を生み出すのだ。

(158) 社会社会関係資本がうまり機能するのは、それが相互性を育むからだ。たくさん共有し、ほんとうに価値あるものと手助けを提供して他の人とつながればつながるほど、その人たちはあなたのことを手助けしたくなる。

(159) 何を売るかではなくどうすれば手助けできるか。

(160) 新しい顧客に向けて名前で呼びかけ具体的にどのような手助けが必要か動画で呼びかける。たった30秒の動画には好感を呼び起こし社会関係資本を築いて、顧客と企業の本当のつがりを作る力があるのだ。

(161) 大企業はすべてを速く処理することに集中し、本当に人間らしい交流を提供しない事が多い。当然ながらたくさんの人に届ける仕組みは重要だが、それは人間らしい交流があったうえでのことだ。そして大企業は顧客になった人とは時間をかけてつながりを作ろうとはしない。

(162) 誰かから10万円稼ぐのではなく、長年のあいだに一人一人の顧客から数十万円のお金を稼ぐのである。

(163) 当然のことだと思うかもしれないが、人間関係においては、基本的な前提条件抜きにして前に進むことはできない。

一つは目は、特別に力を尽くして人間らしくフレンドリーかつ親切に接する事で現在と未来の顧客にあなたとあなたの会社をもっと好きになってもらえる。
二つ目は顧客に尊敬されることだ。同じ物を売り込まない。
三つ目は、あなたの全人格を顧客に尊敬してもらう事だ。仕事以外の場での活動や社会支援なども含めて伝えること。

顧客は自分と同じように感じて行動する会社の事を高く評価する。


(164) しばらくしばらくものを買っていない顧客であっても、長く関係を維持することが重要だ。

(165) 一匹狼にならないこと。たとえ小さな会社の一人でも、個人事業者でも顧客や仕事仲間のネットワークを通じてひとつの仕事を成し遂げることがある。ひとつの仕事が終われば解散するが、また別の仕事ができると別のリーダーのもと新たなチームが誕生するイメージだ。

(166) 仕事を細かく管理する必要はない。一人一人が高度なスキル持っているからだ。完全に自立したメンバーがチームを編成しリーダーは都度変わることはある。

(167) チームを作るために適当な人を雇ってもうまくいかない。
たとえ小さな会社であっても他の専門スキルを持った人や事業者とつながりを築くことで専門性やスキルを共同で蓄えることができる。参加する専門家はプロジェクトのために必要とされているときだけだ。それ以外は自由に好きな仕事をしている。

(168) みんなのスキルを組み合わせ、互いに相談相手になって全般に助け合う事で、一人一人のスキルを単純に足し算したときよりも大きな成果をあげるのだ。

出展元の参考資料 : ポプラ社 Paul Jarvis 『山田文訳』"STAY SMALL"