JICA(国際協力機構)専門家 尾﨑嘉洋氏のレポート

タイの一村一品(OTOP)と日本の協力 (尾﨑嘉洋氏)

尾崎氏による本レポートは、開発支援において「支援が届きにくい人々(LPN:Left Behind People)」へのアプローチをテーマにしています。

現場での具体的な取り組み事例を通じて、「誰一人取り残さない」支援とは何かを多角的に考察れています。

以下、私なりの理解と着目点をまとめました:

1. 「支援が届きにくい」人々とは誰か

  • 単なる貧困層ではなく、民族的・社会的マイノリティ、ジェンダー、障害、高齢、移住・無国籍など、複数の要因で社会から「見えにくく」「つながりにくい」人々がいるということ。
  • 彼らは公式な統計や制度の枠組みにも取り残されることが多く、従来の支援手法では届かない。

2. 支援の届け方そのものを問い直す必要性

  • 「届ける」支援だけでなく、「一緒に作る」支援へ。
  • 住民が課題発見と解決の主体となる「参加型」「協働型」「包摂的な場づくり」が重要。

3. 「声なき声」に耳を傾ける力

  • 数値データでは捉えきれない生活実態や声を把握するには、日常的な接点や信頼関係の構築が不可欠。
  • 形式的な聞き取りよりも、地域に溶け込み、自然な形で情報を引き出す姿勢が求められる。

4. 私自身のプロジェクトとの共通点

このレポートで紹介されているバングラデシュの村々の女性たちの姿は、私が関わる南タイ・パッタルン県のクラチュート職人たちとも重なります。

クラジュード(カヤツリグサ科のネビキグサ)という自然素材を用いるこの伝統工芸は、まさに「自然と共に生きる」仕事そのものです。

しかし、天然素材ゆえに、需要に応じた過剰採取が発生するリスクも無視できません。実際、見込み生産で作られたバッグが売れ残ってしまい、在庫として積まれることがあります。加えて、地方から都市部や国外へ運ぶ際のトラック輸送費は高くつき、売れなければその分がすべてロスとなります。聞くところによれば、「少しでも荷物を減らしたい」との思いから、催事販売の最終日には、値引きして在庫品を処分することもあるそうです。

このような「価格競争」に巻き込まれず、自然と共存しながら持続可能なビジネスとするために、私は、受注生産による「ひとつひとつにカスタム刺繍」を施す新しいビジネスを提案しました。このやり方であれば、在庫も過剰採取も避けることができますし、顧客にとっても「世界に一つだけのバッグ」を手に入れる特別な体験となります。

「私たちは“売る”のではなく、“買ってもらう”という関係性を大切にしたい。物を売るのではなく、想いや物語、背景を理解して“選びに来てくれる”人との出会いを大切にしている。」

それは、作り手の物語に共感したり、社会課題に参加したいという能動的な気持ちを持った方に、手に取っていただきたいからです。この「会いに来るように買う」体験こそが、消費を「支援」へと変える力になると考えています。

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