クラジュード技術者の指導を受けたアルニーさんの半生

南タイの静かな村で生まれ育ったアルニーさん。
彼女が初めてクラジュードの織り機に触れたのは、まだ10代の頃でした。
母親が大切にしていた技術を見よう見まねで学び、村に伝わる「手刺繍」と「手染め」の美しさに惹かれていきました。

しかし、道のりは平坦ではありませんでした。
バッグ作りに挑戦し始めた当初は、失敗の連続。
不良品が続出し、「こんなもの売れるはずがない」と周囲に言われたこともありました。

それでも、アルニーさんはあきらめませんでした。

1999年のラマ9世との出逢い。
思いがけない王室の支援。

技術を磨いてファッションバッグとして完成できたら村興しの商品にできると、王室関係者の目に留まりました。

アルニーさんは自分でデザインを考えました。
天然植物で手染めする技術も習得しました。

「試作品は荒削りだが、これは守るべき伝統の美しさがある」と高く評価され、不良品は王室がすべて買い取ってくれたのです。誇りと自信を取り戻した瞬間でした。

この出来事をきっかけに、クラジュード製品への注目が高まり、彼女の元には弟子入りする生徒たちが集まりました。
そしてついに、パッタルン県に新設された専門技術学校から、クラジュード部門の初代指導者として招聘されることになりました。

都会への出稼ぎに頼らず、村で生活し、家族と過ごしながら収入を得る。
それは、村の女性たちにとってかつては夢物語でした。
アルニーさんの息子夫妻はネット販売を担当しています。孫のナムフォンは生産チームのリーダーを務めています。

「手仕事には、心があります。母から娘へ、そして孫へ。クラジュードは、私たち家族をつなぐ大切な“絆”です。」

女性が活躍する時代。伝統を守りながら、失敗と向き合い、収入と誇りを得たアルニーさんの半生は、
クラジュードという草のように、しなやかで強い生き方の象徴です。

「日本人はバンコクまでは来ますが、このパッタルンの村を訪れた日本人はあなたたちが初めてです」とアルニーさんは、私と私の妻に嬉しそうに話してくれました。