カンパニー・オブ・ワン(日本語)

山田文さんのすばらしい翻訳と原文を並行して読んで言葉、そして行間に敷き詰められた意味を毎週少しづつ勉強する時間。324頁の中から考え方のヒントになる箇所を抜粋しました。そして原書を購入しました。日本語で意味を理解した上で、原書の文章を「そのまま」掲載しています。出来る事なら、日本語と英語の文章を暗記して、自分のビジネスシーンに応じて表現するための英語の勉強にもつなげたいと思います。

第一章 カンパニー・オブ・ワンとは何か

    カンパニーオブワンの定義はシンプルだ。規模の拡大に疑問を投げかけるビジネス、それがカンパニーオブワンである。カンパニーオブワンは従来型の成長を疑問視してそれに対抗する。主義からそうするのではない。規模の拡大は必ずしも利益をもたらすのではなく、経済的にも採算がとれないからだ。

   カンパニーオブワンは、小さな会社のオーナー一人のこともあれば、少人数の創業者集団のこともある。もっと自由に自律して仕事をしたいと望む会社員、経営幹部、役員、企業のリーダーもカンパニーオブワンの考えを採用できる。実際、大企業が優秀な人材を日とどめておきたいのであれば、カンパニーオブワンの考えを一部採用することを検討すべきだ。

    私自身、とてもうまくいくようになったのは、従来のやり方に頼ることなく問題を解決する方法を見つけた時だった。従来の会社は、たくさんの人を雇ったり、多額の資金を投じたり、増えた社員を支えるために複雑な設備を調えたりすることで問題を解決しようとする。 (※調える=必要なモノを用意するという意味、整えるとは意味が違う)

   私は”もっと”を求める問題解決策には興味がない。複雑でコストがかかり、責任も大きくなって、たいてい代償も増えるからだ。”もっと”を追求するのはいちばん手っ取り早い答えだが、いちばんかしこい答えとはえない。

    わたしは規模拡大の道をとらずに問題解決に取り組むことで、よろこびと経済的な利益を得てきた。私もその他大勢の人も、いまあるリソースを使って問題に取り組んでいる。工夫は少し必要だが、そうすることで長期的に安定したビジネスを築くことができる。経営をつづけるのに、あまり多くのものを求められないからだ。(※Resource=人、資源、資産、財源) (※Ingenuity=発明の才、工夫、巧妙さ、精巧) (※Afloat=海上に、船上に、(水面・空中に)浮かんで、(風に)なびいて、浸水して、破産せずに、広まって)

    2016年10月、わたしはブログを更新した時に自分が所有したり作ったりする会社を急激に大きくすることに興味はないと書いた。青い魚の群れのなかで自分だけが赤い魚でいるような気分だった。しかし、おもしろいことが起こった。続々と反響が届いたのだ。フェアトレード・キャラメルの販売を手掛ける人から大手テクノロジー企業や衣類製造業者の社員まで、ビジネスであらゆる刺激的なことに取り組む人が共感のメールを送ってきた。みんな従来型の成長に抗い、そうすることで利益を得てきたという。

    規模の拡大を疑い規模を小さくとどめるという考えを追求し始めると、ほかにも同じ考えを持つ人たちの研究や事例が次々と見つかった。このようなビジネスへのアプローチ試みる動きが、ひっそりではあるが存在することが分かったのだ。(※startup=操業を始める)

    これは資金難にあえぐテクノロジー・スタートアップやぎりぎりの生活を送る人たちだけりものではない。年に数十万ドルから数百万ドルを稼ぎ、普通の人よりも楽しく仕事をしている個人や企業からなる動きでもある。赤い魚はどんどん増えているのだ。(※six and seven figures=6~7桁の金額の遠回しの言い方) (※Ironically=皮肉なことに)

あなたの仕事と利益を守るものは何か

 厳密にいえば、だれもがカンパニー・オブ・ワンであるべきだ。大企業に勤めていても、人はみな本質的にはカンパニー・オブ・ワンである。自分の利益と仕事を守れるのは自分だけだ。ほかの人は、あなたの仕事を守ってはくれない。大企業で働いていても、自分にとっての成功を定義し、それを実現するのは自分の責任である。

    企業のなかでカンパニー・オブ・ワンであることは、むづかしぃが不可能ではない。組織内のカンパニー・オブ・ワンも成功をおさめ、大きな成果をもたらすことがある。長年のあいだにそういう人たちが、ポストイットを発明したりプレイステーションを開発したりしてきた。

    「社内起業家」も、大規模組織内でのカンパニー・オブ・ワンの一例だ。社内起業家とは、自分の目標を設けてそれを実現すべく行動する企業になかのリーダーのことである。指示や細かい管理、監督は必要とせず、仕事では完全な自由を与えられている。やるべくことを分かっていてそれを粛々と実行する。会社が何を必要としているのか、自分の能力がそれにどう役立つのかを理解していて、それをふまえて仕事に取り組む。

   とはいえ、「社内起業家」とカンパニー・オブ・ワン は異なる。社内起業家は通常、製品づくりやマーケティングの責任者だ。つまり、後ろ盾になっている会社のリソースを使って新しいものをつくりだす。一方で企業内のカンパニー・オブ・ワンは管理職である必要もなければ、製品をつくる必要もない。使用するリソースや人員を増やすことなく、もっと生産的に仕事ができるようにする方法を見つけるのがカンパニー・オブ・ワンだ。管理職や製品を作る人であることももちろんあるが、それだけではない。

    大企業のカンパニー・オブ・ワンは、これまでも企業が飛躍的な進歩を遂げたり市場を席巻したりするのを手助けしてきた。GORE-TEXファブリックの製造で知られるW.L.ゴア&アソシエイツ社で働いていたデイブ・マイヤーズは、社内で新しいアイデアを生み出すために自由な時間を与えられ、同社の製品に使われていたコーディングをギターの弦に使うアイデアを思いついた。その結果、アコースティック・ギター弦のブランド、[エリクサー]が誕生してベストセラーになった。(競合他社をはるかに凌ぐブランドだ。私もこの弦を使っている) カンパニー・オブ・ワンは偶然生まれることもある。3M社の科学者、スペンサー・シルヴァー博士が航空宇宙産業向けの接着剤の開発に取り組んでいたとき、さまざまな製法を試しているうちに、まったく跡が残らない力の弱い接着剤ができた。航空機には使えなかったが、そこからポストイットが誕生した。

    Googleなど一部の大企業は、従業員に「パーソナル・タイム」を与えて、通常の業務のほかにさまざまなアイデアを試せるようにしている。Facebookは「ハッカソン」を活用している。ハッカソンは数日間のソフト開発イベントだ。プログラマが集まり。協力して比較的短期間で大きなものをつくりだす。Facebookの重要な機能である「いいね!」ボタンもそこから生まれた。

    ダートマス大学のビジャイ・ゴビダラジャン教授の研究によると、従業員5,000人あたり少なくとも250人は真のイノベーターであり、25人はイノベーターであると同時に優秀な社内起業家(カンパニー・オブ・ワン)であるという。

    つまり、多くの大企業のなかにカンパニー・オブ・ワンが潜んでいるわけだ。これらの社員に自由を与え、イノベーションへのスキルと情熱を育めば、会社全体に大きな利益をもたらす可能性がある。しかし、創造性と自由な発想を抑えつけてしまうと、こういった人材はすぐに転職したり起業したりする。彼らは、お金や給料だけに動かされることはまずない。自分の仕事と役割を、自分の暮らしに最適のかたちにすることに関心を向けるのである。

   カンパニー・オブ・ワンの人は自分の生活を中心に仕事を組み立てる。その逆ではない。わたしにとってもカンパニー・オブ・ワンであることは、無限の規模拡大にかかわらず必要が無いということだ。私が働くのは、会社を無限に大きくすることではない。わたしは、自分にうまく機能するかたちで仕事を最大化しようとしている。だから、時には仕事を減らすこともある。

 仕事は心の健康を保てるペースでするものだ。高額の経費や費用、給料を払うためにすものではない。確かに富が増えるのはうれしいが、自分の健康としあわせを確保できなければ、ある点を超えると富が増えるメリットをあまり感じられなくなる。

   ビジネスの成功について、わたしたちは社会から偏ったイメージを植え付けられてきた。可能な限り長時間働き、ビジネスが軌道に乗るとあらゆる方向へ規模を拡大する。ビジネスを成功させるには、このような戦略が必要だと考えられてきたのだ。さらなるものを加えることによって問題を解決しようとする戦略である。この考え方では、規模が小さいままだと、うまく拡大できないとみなされる。しかし、ビジネスにおけるこの考え方を疑ってみたらどうだろうか。さらなるものを加えることなく問題を解決する方策として、あえてビジネスを小さいままたにしておくとしたら?

    規模の拡大を目指しても(とりわけ、やみくもに規模の拡大を目指しても) ビジネスの問題をすべて首尾よく解決できるわけではない。そらに言うなら、ビジネスを長く続けたいのなら、規模を拡大するのは実は最悪の選択かもしれない。

    ようするに、カンパニー・オブ・ワンは成長それ自体に反対するわけではなく、収益をあげることに反対するわけでもない。ひとりでやるビジネスに限定されることもない。(もちろんひとりでやるビジネスの場合もある)。それに、テクノロジー、自動化、インターネットが役に立つのは確かだが、カンパニー・オブ・ワンはもっぱらテクノロジーに関心がある人やスタートアップ的な考えを持つ人でけのものでもない。まず、規模の拡大に疑問を投げかけ、かしこく前進できるもっといい方法があるときは規模の拡大に抗うのがカンパニー・オブ・ワンだ。次に、すべてのカンパニー・オブ・ワンに共通する4つの特徴を見ていこう。弾力性、自由とコントロール、スピード、シンプルさだ。

   【弾力性】柔軟な回復力

 ベストセラー作家であり、たたきあげの起業家でもあるダニエル・ラポルテは、目標設定や起業家精神について毎月たくさんの人にメッセージを発信している。あのオプラ・ウィンフリースの「スーパー・ソウル100人」にも選ばれたリーダーだ。しかしその昔、ダニエルは数か月前に自分が雇ったばかりのCEOに解雇されると言う経験をした。

    会社をすぐに大きく成長させなければならないと考えていたダニエルは(彼女のビジネスについては第二章でくわしく取り上げる)、個人投資家から40万ドルの資金を集めた。その際に融資の条件として、優秀なCEOを雇って経営を任せられるように求められた。ダニエルは会社を法人化して、スーパースターと考えられていた人物をCEOに迎えた。

    しかし6か月後、投資家たちとCEOはビジネスモデルを変えようとして、ダニエルを閑職に追いやった。ダニエルの仕事は月に何度かのブログ更新だけになり、収入も大幅に減る。会社はダニエルの名を冠した個人ブランドであり、彼女の個性とスタイルにもとづいた企業だったにもかかわらずだ。

    たくさん涙を流し、ヨガをして、親切な友人たちにも助けられたおかげで、ダニエルはこのショックを乗り越えて気力を取り戻した。優秀な人材を集めて新しいチームをつくり、わずか数週間でウェブサイトを立ち上げる。そして、どうすれば自分の思いどおりに動かせる新会社で最も早くお金を稼げるようになるかを考えて、コンサルティング・サービスの提供を始めた。それが大好評を博し、順番待ちの列ができて、その後、ベストセラーの本も書いた。

    新しいウェブサイトが斥候するなかで、ダニエルはあることに気づいた。ほかの人のお金にはその人の意見もついてきて、ビジネスや生き方に口を挟まれるというとだ。苦労を経て、ダニエルはカンパニー・オブ・ワンになる道を見つけた。カンパニー・オブ・ワンになると、あるいはカンパニー・オブ・ワンであることは、弾力的であるということだ。つまり、労働市場の変化や失業といった困難な状況からすぐに回復する力と不屈の精神を持つつということである。大企業の重点の変化、新しいテクノロジーの出現、ロボットの普及による仕事の喪失(SFの話をしているわではない。この点についてはすぐあとにさらに述べる)なども同様だ。

    アダプティブ・ラーニング・システムズ社のCEOディーン・ベッカーは、1997年から弾力性について研究し、プログラムを開発してきた。同社の研究によると、ビジネスの成功は、その人の教育、訓練、経験のレベルよりも弾力性のレベルにはるか大きく左右されるという。弾力性は少数の者だけが生まれつき備えている性質だと思われがちだが、実はそうではない。それは確実に習得することが出来るのだ。弾力的な人は3つの性質を備えていて、それはどれも学んで身につける事ができるのだ。

   第一の性質は、現実を受け入れる事である。物事はこうあるべきだという考え方は持たない。「これさえ変わればうまくいくのに」と想像するのではなく、地にあしがついた考えを持つ。身のまわりでおこることのほとんどは自分で完全にコントロールできないと理解していて、人生の川を下る私たちにできるのは、せいぜいボートの舵を操作して針路を少し調整することぐらいだとわかっている。たとえば、隣の人がチェーンソーを使っていてうるさくても、わたしは執筆作業をやめない。窓を閉めて音楽をかけ、仕事を続けるだけだ。ダニエル・ラポルテは解雇されてもあきらめなかった。少し時間をかけて態勢を立てなおし、また動きはじめたのだ。

     現実を受けいれるのには、ちょっとしたブラック・ユーモアが役立つことも多い。私の妻は消防士で救急隊員だが、いつも署のことについて冗談を言っている。隊員たちはつねに最悪の事態を目の当たりにする—燃え落ちる家、心臓発作、さらにはチェーンソーの事故まで。署長はこうした状況に対処する方法として、ユーモアを積極的に歓迎している。悲惨な状況を軽く見ている訳ではない。悲惨な状況に、ある種の軽さを与えているのだ。ユーモアのセンスは、人命救助や消化のスキルと同じくらい重要だ。外部の人にはどれだけばかばかしく聞こえても、ブラック・ユーモアのおかげで消防士や救急隊員は現実を受けいれることができ、仕事に取り組むにあたって弾力性を保つことができるのである。

   第二の性質は、目的意識を持っていることである。弾力的な人は、お金だけでなく仕事の意義にも動かされているのだ。目的とお金は相容れないわけではないが、ひどい状況やストレスフルな状況でも、大きな全の為に仕事をしているとわかっていると、弾力的でいられる可能性が高くなる。この目的意識は、個人と会社全体の中心にあって変わることのない価値観から生まれる。

    カンパニー・オブ・ワンは、仕事の全対面が四六時中楽しいわけではないと認識しつつも、仕事を楽しむことができる。仕事が時にストレスフルでも、それが大きな全体に結びついたり、大きな結果につながったりするのであれば、つらくてもやりがいがあるからだ。たとえば、新製品を発売したり新しいクライアントを獲得したりした直後は、ストレスを感じる事もあるかも知れないが、その商品やクライアントがビジネスの目的にかなっていれば、少しのあいだ不安を覚えても問題はない。ずっとストレスがつづくわけではないからだ。

   最後の性質は、変化への適応能力があることだ。変化が起こるのは避けられない。ライアソン大学の研究によると、カナダで自動化が進むことによって42%の仕事が失われる可能性がある。また、ホワイトハウスの大統領経済諮問委員会が2016年に発表したところによると、アメリカでは向こう10~20年間で62%の仕事がなくなるおそれがあるという。「ロボットの大君主を迎え入れる」(H・G・ウェルズの小説を1977年に映画化した「巨大蟻の帝国」のなかの印象的なせりふだ) と冗談を言う事はできるかもしれないが、この脅威は現実だ。

   マクドナルドには10秒間で鉄板上の全てのパティをひっくり返せるロボットがあり、数年のうちにクルーはみんなロボットに取って代わられる可能性がある。テスラなどの企業は、大型トラックの自動運転を実現させて長距離輸送ドライバーのかわりにしようとしている。また、高度な技能を求められる仕事も脅かされている。例えばIBMのAI(ワトソン)は、医学の研究や疾病に関するデータに基づいて、病気の治療法を提案できる。

   とわいえ、カンパニー・オブ・ワンは、機械化のむずかしいところでこそ強みを発揮する。すなわち、”もっと多く”を投じることなく、ユニークな新しい方法で創造的に問題を解決できるのだ。作業はロボットやほかの人間でもかわりにできるが、むずかしい問題を創造的に解決するのは、取り換えのきかない個人の力によるところが大きい。ロボットが普及しだしても、ここにカンパニー・オブ・ワンの強みがあることは間違いない。

   カンパニー・オブ・ワンは、このような変化を見越して方向転換できる。たとえば、インテリア・デザイナーは、寸法をとったり物品を注文したりするのに使う時間を減らして、クライアント独自のニーズをもとに斬新なデザインを考えるのに時間を割けるかもしれなす。あるいは、ファイナンシャル・アドバイザーは、クライアントの財政状況を分析するのに使っていた時間を減らして、クライアントの具体的なニーズを理解し、どのように金銭管理をすればいいのかを助言するのにもっと時間を費やせるだろう。

    業界の再編や市場の変化を悲観する必要はない。仕事のやり方を見なおして、変化に適応するチャンスなのだ。私がフルタイムでウェブ・デザインをしていたときには、バブルが弾けたり不景気になったりするたびにむしろ仕事が増えた。大きな会社が提供するのと同じ質の仕事をひと桁少ない額で提供していたからだ。それに、給料をもらって会社で働くよりも多くのお金を稼いでいたうえに、経費はほとんどからなかっただ。

 パソコンを一台買い、賃貸マンションの二つ目の部屋の費用を計上したら、ほぼそれでおしまいだ。また、経済がもちなおすと、企業は忙しくなりすぎて仕事を下請けに出さざるをえなくなり、その仕事がわたしにまわってきた。いずれにせよわたしは、大規模な企業が大幅に規模を縮小しなければ真似できない収入のモデルを築いていたのだ。

    変化が生じたり、市場が困難な状況に陥ったりしたときには、その場に応じて柔軟に対応すれば、社員や支出を増やしたり設備を拡大することなく、すでに手元にあるもので間に合わせることができる。

   こうした弾力性は、生まれつきのものではなく習得できるものだ。実際、カンパニー・オブ・ワンをつくろうと思ったら、これを育まなければならない。

   【自由】仕事をコントロールする

 カンパニー・オブ・ワンが広がりつつあるのは、自分たちの生活に—とりわけキャリアに—自由とコントロールが欲しいと思っている人が多いからだ。だからこそ、多くの人がこの道を選んでいるのである。カンパニー・オブ・ワンになることで、自分の生活と仕事をコントロールできるようになる。

    しかし、カンパニー・オブ・ワンとして自由を獲得するには、自分の核にある一連のスキルを把握しておく必要がある。能力と自由は切り離すことが出来ない。自分が何をしているのかわからない状態で完全にコントロールする力を持ってしまったら、悲惨な状況に陥る。トムはマーケティングの知識をハーバードのMBAコースと就職先の企業で習得していた。また、漫画の才能を子供時代から育んで、副業を通じてそれに磨きをかけていた。トムと同じように、あなたも人かから必要とされている一連のスキルやスキルの組み合わせがあるにちがいない。高度に発達したスキルを持っていると、どの分野をのばせばプラスになり、どの分野は拡張しても意味がないかが分かるようになる。

    ようするに、まずスキルを磨いておけば、そのスキルを使って自由を獲得できるということだ。

 そのためには通常、キャリアのはじめにある程度の時間をかけて、上司の管理の元、自由とコントロールの幅が小さく弾力性もさほど求められない仕事をする必要がある。カンパニー・オブ・ワンは、より大きな善のために標準的なルールを破る方法を知っている。しかし、ルールを破るのは簡単ではない。はじめにルールを学ばなければならないらだ。カンパニー・オブ・ワンになる前の段階では、まず心をスポンジのようにしていろいろなことを吸収し、自分の職業、業界、顧客についてありとあらゆることを学んで、スキルと習得する必要がある。

      優秀な社員にうまく自由を与える企業は、社員をカンパニー・オブ・ワンのような存在と下扱い、社員に権限を与えていることが多い。こうした社員たちは、あまりリソースを使わずにすばやく独創的に仕事をする。たとえば、Googleはエンジニアに「20%の時間」を与えている。勤務時間の20%は自分のやりたい仕事をしていいという仕組みだ。Googleがリリースする製品やプロジェクトの半分以上が、ひの20%の時間に生みだされている。

   完全成果主義労働環境(ROWE)を導入する企業もある。そこでは、社員のスケジュールは決まっていないし、会議への出席も自由だ。仕事時間の使い方は完全に社員に委ねられる。自宅で仕事してもいいし、午前2時から午前6時まで働いてもいい。それに、会社全体の利益につながるのであれば、自分の好きなように仕事に手を加えてもいい。ROWEの概念を提示し、10年以上にわたってその現場を研究してきたカリ・レスラーとジョディ・トンプソンによると、この種の自由な環境では生産性が上がり、社員の満足度が高まり、総売上高は下がる。

   起業家や自営業者にとって、自由を確保するのは簡単なように思えるかもしれないが、そこには落とし穴がいくつかある。独立して仕事をはじめると、細かく口出しする上司はいなくなるが、そのかわりに細かく口出しするクライアントに対応しなければいけくなることが多い。いいクライアントといい案件を見つけるには、スキルと経験がものをいう。本節の最初に触れたとおりだ。独立したばかりであまりスキルがないと、プロジェクトを率いる事はできないし、仕事も選べない。しかし、専門技術が高まって人脈が広がると、こちらの意見に耳を傾けてくれるいいクライアントを獲得できるようになる。また、自分が望む顧客やプロジェクトも選べるようになる。

  デジタル・ストラデジストで現在はフリーランサーとして働くケイトリン・モードは、企業で5年間働いてスキルを磨いた。その間に業界の仕組みを学び、確固たる人脈を築いて、その人たちと積極的に交流した。漫画家のトムと同じで、独立に踏み切ったのは、ある程度の安定した副収入が得られるだけの仕事を確保できるようになってからだ。

  ケイトリンの考えでは、何に自由を見いだすかは人によって異なる。ケイトリン自身は、仕事を速く片付けられるね働き方を確立した。普通の会社では、どれだけ仕事の早い人でも、毎日決まった時間はオフィスにいなければならない。つまり、生産性や効率性を高めても見返りはない。ケイトリンは、集中すれば午前9時から午後1時までの間に仕事を片付けられると分かったので、その時間帯には会議や電話の予定を入れないようにした。

  クラウド・ソーシング・サービス(アップワーク)の調査によると、アメリカでは現在、3分の1を超える仕事がフリーランスでなされている。仕事がなくなったために仕方なくフリーランスで働くのではなく、ケイトリンのように、フリーランスとして働くことを選ぶ人が増えているのだ。若者のあいだでは、フリーランスで働く人がほぼ半数を占める。もっと自分の思いどおりにキャリアを築けるようにと、あえてフリーランスを選ぶのだ。社会全体でも、「仕事」はひとつの職場としてではなく、一連の取り組みやプロジェクトとしててイメージされるようになってきた。とくに、ミレニアム世代にとっては、従来の企業オフィスでの働き方はもはやおこがれの的ではない。テレビ・ドラマ『ジ・オフィス』流の諷刺コメディのようなものになっている。

    顧客と広い人脈を手に入れてから、ケイトリンは会社を辞めて完全にフリーランスとして働きだした。会社時代はまず自分のスキルを磨き、それから独立に向かって力を注いだ。独立後はつねに順番待ちの顧客がいて、自分の価値観に合わない仕事は断っている。また、オーディオ機器メーカーのBeats by Dr. Dre、タコベル、Adobe、シューズ・ブランドのTOMSといった大企業とも仕事をしてきた。

    現在ケイトリンの仕事は生活を中心に成り立っている。そうなるように力を注いできたからだ。自分がやりたい仕事に集中でき、オンラインで創造的に問題を解決している—ケイトリンはインターネット業界のオリヴィア・ポープ(テレビ・ドラマ『スキャンダル—託された秘密』の主人公)であり、だれにも解決できない問題を解決する。彼女はカンパニー・オブ・ワンへの道を歩みつつあるのだ。

    カナダ人のソル・オーウェルは、大きな利益をあげている自分の会社Examine.com へのベンチャー・キャピタルへの投資を拒んだ。ベンチャー投資家に会社の支配権を手渡したくなかったからだ。会社の売上は年に数百万ドルあったので、現金は必要なかった。会社を売ろうとしていたわけでもなく、仕事をおおいに楽しんでいた。過半数の株を持っているので、顧客のほかに責任を負う相手もいない。大量の資金を調達するよりも、ソルは仕事のオーナーシップを維持し、四六時中仕事に追われることのない自由を確保したかったのだ。彼にとって成功とは、きちんと生計を立てていくことを意味する。しかし、日中に長い休息をとって犬を散歩に連れて行ったり、水曜の午後に一時間のダンス・クラスに参加したりする時間を犠牲にする気はない。

    ただ、カンパニー・オブ・ワンをうまくコントロールるすには。仕事で必要となるスキルを備えているだけでは足りない。セースル、マーケティング、プロジェクト管理、顧客維持にも通じている必要がある。普通の会社員はたいていひとつのスキルに特化できるが、カンパニー・オブ・ワンは、たとえ大企業のなかで活動する場合でも、多くのことに通じたゼネラリストでなければならないのだ。

   【スピード】軌道修正の速さ

 カンパニー・オブ・ワンは、制約のもとで最もうまく機能する。制約があると、創造性と創意工夫が発揮されるからだ。たとえばプロジェクト管理ウェブサービスを提供するBasecampは、夏のあいだは週休3日(金曜も休み)になる。そうすることで、重要な仕事とそうでない仕事を考えて、優先順位をつけられるようになるからだ。同社の社員にとって重要なのは、ただたくさん働く事ではない。もっとかしこく働いて、限られた時間の中で仕事をやり遂げることだ。カンパニー・オブ・ワンは、既存の仕組み、プロセス、構造を疑ってかかり、もっと効率的に仕事をして、同じ数の社員で、勤務時間を減らしながら、もっとたくさんの成果を出せるようにする。

   Basecampでは、社内のイントラネットに週末3日間の記録を投稿できるようになっている。これによって、世界に散らばり、オフィスから離れて働く社員達のあいだにつながりをつくっているのだ。

    スピードとは、ただがむしゃらに速く仕事をすることではない。効率的な新しい方法を使って、最もうまく仕事をやり遂げることである。ROWEの土台にあるのもこの考えだ。社員は決まった時間に働く必要がないので、やるべき仕事を早く片づけたら、そのぶん自由時間が増えて報われる。工夫して多くの仕事を短時間でこなせば、スケジュールに余裕ができ、暮らしのなかに仕事をもっとうまく組み込めるようになる。

    会社のオフィスで働いていたときには数日かけてやっていた仕事を、ケイトリンはいま数時間で終えている。どうすれば生産性を最大までたかめられるかわかったならだ。これによって仕事時間に余裕ができ、それほど忙しくない時にはジムへ足をはこんだり、生まれたばかりの娘と過ごしたりしている。会社で8時間かけてやっていた仕事を、フリーランスになってからは4時間で片付けられるようになり、一日の半分を自由に使えるようになったからだ。今でもケイトリンは一生懸命働いてて、プロジェクトの締め切りが迫ると長時間仕事をすることもある。しかし、普段は自分のスケジュールを自分でやりくりできている。

    顧客や市場が変化したときにすぐに軌道修正できるのも、カンパニー・オブ・ワンにおけるスピード性の一側面だ。カンパニー・オブ・ワンは、ひとりだったり小さな会社だったりするので、必要な調整も少なく、こうした対応をとりやすい。

   カンパニー・オブ・ワンがスピードを有利に使えるのは、必要な時に迅速に軌道修正できるからだけではない。邪魔になる人の数が少ないからでもある。スチュアート・バターフィールドは、『ゲーム・ネヴァーエンディング』や『グリッチ』といったオンラインゲームの開発をはじめたが、利益をあげられるだけのプレイヤーを確保できなかった。しかし、スチュアートは、当時まだ少人数だったチームを軌道修正させてゲームから重要な機能を取り出し、他の商品に転用した。写真共有サイトFlickrと、社内チャットサイトシステムSlackだ。現在、Slackには10億ドル超える価値がある。

    時間と資金の制約があったからこそ、スチュアートのチームはひとつの商品に全力を注ぎ、それを市場に送り出すことができた。会社の規模を拡大することなくううまくいっている事といない事を把握することで迅速にスピンオフ商品へと移行し、それが最終的に大きな収益を生んだのだ。

   ダニエル・ラポルテと話した時に、新しいビジネス・アイデアが浮かんだからまた資金調達をするつもりかと尋ねた。答えはノーだった。外部の資金を利用しないほうが、すばやく動けると分かったからだ。外部から資金調達するのではなく、新製品の最初のバージョンをすぐに売り出して収入を確保する。そしてその資金を使ってさらに生産を続け、コストと支出を最低限に抑えながら、できるだけ早く利益が出せるようにするのだという。スタッフが少なくて外部の資金もあまり入ってこないと、前進するにせよ有望な方向へ舵を切るにせよ、会社はすばやく動くことが出来る。

   【シンプルさ】コストをかけず、すぐやれること

 シンプルさが重要であることは、ふたつのソーシャル・ブックマーキング・サービスの例を見るとよくわかる。PinboardとDeliciousだ。Deliciousは急速にに拡大し、たくさんの機能が加えられていった。創業者のジョシュア・シャクターは早い段階から資金を投じて、Deliciousをおよそ530万人のユーザーを抱える企業へと成長させた。同社は1,500万ドルから3,000万ドルほどでYahoo!に売却された。しかし、利益をあげることが出来なかったTahoo!は、DeliciousをAVOS Systemsに売却する。AVOSはユーザーに人気のあったDeliciousのサポート・フォーラムを閉鎖した。数年後にAVOSはDeliciousをサイエンス社に売却し、ユーザーはDeliciousから離れて別のサービスを使うようになっていった。

    Deliciousの経営者が次々と代わるなか、ウェブ開発者のマーチュイ・スグロウスキがPinboardを立ち上げた。シンプルなサービスを年に3ドルで提供していたが、この料金は徐々に値上がりして年に11ドルになる。Pinboardはひとりでやっている会社であり、機能は限られていて、投資家の資金も入っていない。スグロウスキは最初の数か月は副業としてこの仕事に取り組み、十分な収入が確保できるようになってから、Pinboardの仕事をフルタイムでするようになった。

    そして、2017年6月1日、PinboardはDeliciousをわずか3万5,000ドルで買収し、すぐに新規ユーザーの登録を停止した。利用中のユーザーにはPinboardへアカウントを移行するオプションを提供した。

  Deciliousは急速に規模を拡大させた。何百万ドルもの資金が投じられ、サービスと社内構造が複雑化したのちに、わずかな金額でカンパニー・オブ・ワンに吸収された。Pinboardはシンプルさを保ち、長期的な視野で事業を展開して、結局勝利を収めた。

    通常、企業が成功したり勢いづいたりすると、コストが増えて時間とお金がかるようになることが多い。カンパニー・オブ・ワンでは、規模の大小にかかわらず、シンプルなルール、シンプルなプロセス、シンプルな解決策がうまく機能する。それに対してとくに大企業では、よかれと思って複雑さが加えられていくことが多い。しかしそのうちに複雑なプロセスや仕組みにさらに複雑なプロセスが加わり、タスクを終える事ではなく仕事そのものに労力が費やされることになる。これは危険や道だ。プロセスに段階がひとつ加わるだけなら、複雑さもさほど増すわけではない。とはいえ、数年が経ち、あちこちにさまざまなものが加わると、以前はわずか数ステップで片付いた仕事が、6つの部署の長からサインをもらい、法律上の問題がないかを確認したうえで、関係者との会議を十数回も重ねなければ処理できなくなる。

   それとは対照的に、カンパニー・オブ・ワンにとつて成長とは、ルールとプロセスを単純化することでもある。そうすることでタスクを早く終えられるようになるので、仕事とクライアントにかける時間が少なくなる。これを目標に、カンパニー・オブ・ワンは自分の仕事に絶えず問いを投げかける。このプロセスは効率的だろうか? 同じかもっといい成果を確保しながら、省略できるステップはないだろうか? このルールはビジネスにとってプラスになっているのか?

   カンパニー・オブ・ワンが成功を収めるにはね単純化の戦略をとることが望ましいだけでなく絶対に欠かせない。製品やサービス、管理の層、仕事のルールやプロセスが増えすぎると衰退につながる。シンプルさを確保しておかなければならないのだ。マイク・ザフィルスキーは、通信機器メーカー<ノーテル>のCEOに就任すると、「ビジネスをシンプルに」という明確な方針を打ち出して社内全体で実行に移した。コストを削減し、製品開発をスピードアップして、最新技術をわかりやすく顧客に提供することにしたのだ。マイクは、”シンプル”という考えを大企業の隅々に浸透させた。

    最初から複雑さが忍び寄ってくることも多い。新しいビジネスをはじめようと考えているときから、複雑なほうに向かいだすのだ。ビジネスをはじめるには、まず「必需品」を備えなければいけないと考えがちだ。たとえばオフィス、ウェブサイト、名刺、パソコン、ファックス(これは冗談だが)、特注のソフトウェアといったものである。しかし、実際には、とりわけフリーランスやスタートアップとしてビジネスを始めるときには、お金を払ってくれる顧客をひとり見つけて、その人の役に立つことさえできれば十分だ。その後は同じことを繰り返すだけでいい。新しいものやプロセスを加えるのは、ほんとうに必要に迫られたときだけだ。

 はじめようと思っているビジネスが多くの資金、時間、リソースを必要とするなら、それはおそらく大きなものを想定しすぎているのである。最低限のところで、つまり、いま、安く、すぐにできるところまで規模を小さくしてビジネスをはじめ、それを繰り返せばいいのだ。自動化や設備や経費なしではじめるべきである。ひとりの顧客の役に立つところからはじめよう。それから次の顧客を見つける。そうすれば、いま自分が持っているものを使って、すぐに人の役に立つ仕事をすることに集中できる「セールス・ファイル」のような仕掛けや自動化には、個々の顧客と深い関係を築く意味がなくなった時点で取り組めばい。

第二章 小さいからできること

ショーン・デスーザは自分の会社を大きくしたいとは思っていない。ショーンは、事業主としての自分の仕事は無限に利益を増やすことだとは考えていない。競争に勝つことだとすら思っていない。顧客の暮らしと仕事にプラスになるように、よりよい商品とサービスを提供する事が自分の仕事だと考えていいるのだ。つまり、無限の規模拡大を目指すのではなく、いまいる顧客の役に立つことだけに焦点を絞っているのだ。               

ショーンと同じように、セムコ・パートナーズ社のCEOリカルド・セムラーも自分が所有し投資するビジネスにふさわしいサイズを見出した。それがうまく機能して、セムコは1億6000万ドルもの価値がある企業に育ったのである。リカルドは、企業をただ大きくするのではなくよりよくする事に集中すべきだと考えている。自分が経営する会社が世界で競争力を確保できる規模を割り出し、そこで拡大をやめて、大きくすることからよりよくすることへと重点を移す。

3200社を超える高成長テクノロジー・スタートアップを分析した(スタートアップ・ゲノム・プロジェクト)の研究によると、そうした企業の74%が失敗に終わっていた。競争やビジネス計画の不備が原因ではなく、急激に規模を拡大しすぎたためだ。

カウマン財団の調査によると、長期的に成功している企業の86%はベンチャー・キャピタルの資金を利用していない。なぜか。起業の関心は資金提供者の関心と必ずしも一致しないからだ。

カンパニー・オブ・ワンは安定性、シンプルさ、独立性、長期的な弾力性に関心を向ける。ソーシャルメディアのスケジュール管理ツールBufferは300万人を超えるユーザーを抱えているが、社員は72人だけで、その数を急激に増やそうとはしていない。 人を雇うのは、絶対に必要な時だけだ。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             

小さいままでいることが最終目標

戦略は、「できるかきせり多くの人に広げる」から「見る目がある人に広げる」に変化する。

スターバックスは世界中に何百も店をひらいていたが、さらに速く規模を拡大しようと、サンドイッチ、CD、手の込んだドリンクを商品に加えた。この急速な拡大によってスターバックスのブランドはぼやけ、同じくらい急速に規模を縮小して900の店舗を閉鎖せざるを得なくなった。その後、スターバックスは原点に立ち戻り、ひとつのことに集中するようになった。よりよいコーヒーを提供する事だ。

質の高いコーヒー専門店としての位置づけを取り戻すために、機械類をアップグレードし、完璧なエスプレッソを淹れられるようスタッフを再教育して、音楽やランチ・フードなど余計な商品を取り除いた。スターバックスは、つらい経験を経て、よりよいものとより大きなものは必ずしも同じでないと野なんだのだ。

成功に規模は必ずしも必要ない—クイーン・オブ・スノー・グローブズの創業者リア・アンドリュースは、偶然それに気づいた。リアは規模拡大にまったく向かない会社を経営している。手のこんだユニークなスノー・ドームを一つひとつオーダーメイドで作っているのだ。リアのもとには最初から注文が殺到した。クエンティン・タランティーノやチャニング・テイタムといった有名人や、Netflixのオフィスからも注文を受ける。しかし、リアは生産を拡大するのではなく、需要と供給が釣り合うところまで、値段を徐々に上げていった。競合他社が作る大量生産のスノードームよりも質の素晴らしい製品をつくることに力を注ぎ、そうすることでほかより大幅に高い値段をつけせれるようになったのだ。大量生産できる商品ではなく最高の製品を作ることに集中したえかげで、リアは生産の規模を拡大することなくたちまち利益を増やすことができた。生産の規模を拡大していたら、複雑さが増して費用も大きくなっていたに違いない。

繰り返し料金を倍増していって、自分が使える時間よりもほんの少しだけ需要が大きくなったところで値上げをやめたのだ。そのおかげで、利益を増やすために人を雇わずにすんだ。もっといい仕事をすることに集中しているだけでよかったのだ。

目標に上限を設ける意味

たいていの会社は目標を設定するが、それに上限を設けようとすることはまずない。目標に上限を設けてみてはどうだろうか。例えば「この四半期に最低でも100万ドルを売り上げたいが、140万ドルを超えないようにしたい」「購読者を一日2000人増やしたいが、2200人を超えないようにしたい」といった具合だ。

ビジネスのほとんどの領域では、持続可能な魔法のゾーンがあつて、それは本書のそいしょに示した十分という考え方と関係している。あまりに速く大きくなると、さまざまな問題が生じる。

長期的に維持できる自分たちのペースを設定するのだ。

ソクラテスはねたみは魂の腐敗だという。私たちは他の人の成功から悪影響を受けがちだ。自分を他の人と比べる事で自分自身がほんとうに望むことを見失って今うのである。嫉妬は間違った比較にもとづいた感情でもある。調理前の食材と焼きあがったおいしいパイを比べているようなものだ。

第三章 リーダーに求められるもの

内省的でも優れたリーダーになれる。カンパニー・オブ・ワンは、思慮深く、内省的で、落ち着いた人物が率いて経営する事もできる。特に男である必要は全くない。カンパニー・オブ・ワンにもリーダーシップは必要である。自分一人で仕事をするのなら、リーダーとしてサービスや製品ををうまく売り込み、クライアントや顧客とよい関係を維持しなければならない。フリーランサーなどとチームを組んで仕事をするのなら、その人たちを率いる必要もある。カリスマ、すなわち魅力たっぷりに自分を売りこみ、人を動かして人を巻き込むことができる力は、リーダーが生まれがらにして持つものだと思われがちだが、実際にはそんなことはない。カリスマは必要に応じて学ぶこともできれば引き出されることもある。おとなしい人でもこれは同じだ。

FacebookのCEOマーク・ザッカーバーグは典型的な内向的リーダーだ。そのため、COOのシェリル・サンドバーグの手を借りて、社会的、政治的な面の助言を仰いでいる。マークは多くの従業員や部下を自分の支配下に置くのではなく、少人数の誠実で協力的な人たちとのつながりを活用している。

ハーバード・ビジネス・スクールの研究によると、とりわけ高いスキルを持ち率先して動くチームを管理するときには、内向的なリーダーがうまく機能することがある。

カンパニー・オブ・ワンは穏やかな人があることも多い。大声をあげることなく、世界をよくしようという自分の気持ちに内側から動かされて仕事をしている人たちだ。自分が内向的なのを言い訳にして行動しないのではなく、内向性をプラスの方向に活用することにしたのだ。

私にはリーダーとしての能力がほとんどないので、それが私のカンパニー・オブ・ワンの足を引っ張りかねない。だから私は、管理の必要がまったくないフリーランサーたちとだけ仕事をしている。みんな仕事のやり方を熟知した一流の専門家だ。

従業員がいない会社でも、制約は必要だ。クライアントのきわめて具体的な要求に応え、正確に機能する製品を求める顧客を満足させるにあたっては、決まったやり方、システム、繰り返し使える構成要素(コード、マーケティングの文言、ビジュアルを利用するほど、仕事をよりよく速くこなすことができ、必要な時間や人も減らせる。それと同時に、収入、成果、顧客は増やすことができる。

専門性を生かすために必要なスキル

ゼネラリストとして望ましいのは、まず専門性を高め、必要に応じて補助的、補完的なスキルを追加していき、最終的に仕事の特定の部分だけでなく全体あるいは、ほぼ全体を理解することだ。

リーダーは核になる一連のスキルだけを習得していればいいわけではなく、ビジネスの仕組み全般を把握していなければならないのだ。なかでも、カンパニー・オブ・ワンのリーダーが出発点とすべき、あるいはすすんで育むべき一般的な性質がいくつかある。

【心理を理解する】

カンパニー・オブ・ワンにとっては、人の考えを理解することが決定的に重要だ。製品やサービスについて、人が意思決定する過程や理由を知っておく必要がある。自分が作ったものを買ってもらうにはとせうすればいいのか。どうして顧客は迷うのか。みんな何に価値を見出して生活しているのか。商品を買ってもらえた場合、どうすればその顧客に満足してもらえるのか。自分のビジネスのなかで活発に動いているのはどこで、それはなぜだろう。こうした重要な要素を理解することで、よりよいリーダー、営業担当者、マーケティング担当者になれる。

【コミュニケーション】

自分のことをコミュニケーターや作家だと思っていなくても、たいていの人は一日のかなりの時間を割いてものを書いている。E-メールからツイート、電話の会話まで、あらゆることがコミュニケーションだ。わかりやすくコミュニケーションをとる方法を学べば学ぶほど、リーダーとしての能力も高まる。指示をよく理解してもらえるようになるからだ。

【弾力性】

イギリスのジャーナリスト、マイルス・キングトンが、こんなことを言っている。「知識とは、トマトがフルーツであると知っている事だ。智慧とは、トマトをフルーツサラダに入れないことだ。」たくさん知識を持っているからといって、智慧があることにはならない。データや経験が豊富にあっても、やはりコントロールできない要因はたくさんある。実のところ、ビジネスの多くの部分は推測にもとづいている。したがって、失敗したときに巻き返しをはかり、チーケに活気を取り戻せることが大切だ。失敗は必ず起こるからだ。

【焦点を絞る】

カンパニー・オブ・ワンのリーダーは、手際よくノーと言う達人にならなければならない。チャンス、仕事、気をそらすもの、企画、ミーティングがしきりにやってくる中では、ノーと言うことが有効になると知っておく必要がある。ビジネスやチームのためにならないことはすべてノーと言うことで、より良いチャンスに集中する余裕を確保できるのだ。様々な選択肢をすばやく評価して、どれを選んでどれにノーと言うかを判断できるようにしておかなければならない。

【決断力】

意思決定は心に大きな負担がかかり疲れる作業だ。決めることにうんざりしてくると、望ましくない決定をするようになる人が多い。ストレスになる大きな決定を、処理しやすい小さな決定に分ければ、もっとすばやく、かしこく、ストレスの少ないかたちで方針を決められる。

「たくさん」ではなく「よりよく」

カンパニー・オブ・ワンは、たくさん働くのではなく、よりよく働くべきと考える。仕事のほかにも生活があり、睡眠と休息が大切で、もっと落ち着いた働き方をすべきだという考え方を従業員に浸透させなければならないのだ。かける時間よりも、やり遂げる仕事の中身を重視しているわけだ。目的に合わないものにノーと言うことで、目的にかなった貴重なチャンスにイエスと言える余地を確保できる。

成功も失敗も隠さない

人をリーダーにさせるまさにその素質が、リーダーになると失われていくのだ。

人間はみんな不完全だ。それを認めれば、リーダーは万能でなければならないという考えを打ち壊し、修正することができる。

必要に応じて重荷をほかの人と共有することで、カンパニー・オブ・ワンをつくり維持するのに大きな役割を果たす弾力性を培うことが出るのだ。

最後に、リーダーは感謝を示す必要がある。ペンシルヴぇニア大学ウォートン校のアダム・グランドによると、業務委託先、従業員、同僚に感謝すると、はるかに積極的に仕事に取り組んでもらえるようになり、生鮮性も高まる。感謝の気持ちをちょっとした手段で示すだけでも効果があるという。感謝を込めたEメールを送ったり、公の場で評価したりという具合だ。

ようするに、自己認識を持ち、自分の成功と失敗のどちらも隠さずに、ともに働く仲間に共感して感謝の気持ちを示すことで、リーダーシップの権力の腫瘍を治療できるのである。ほとんどの場合は、疲れを知らないリーダーを美化することから生じる。失敗や欠点が無視され、それを修正したりそこから学んだりすることが出来ないからだ。

第四章 「規模拡大」ではない「成長」

イーコンサルタンシーとレスポンシスの「クロス・チャンネル・マーケティング・レポート」によると、新規の顧客を獲得するには、既存の顧客を維持する5倍のコストがかかる。拡大に集中せずに規模を小さくとどめておけば、ビジネスの核にあなた自身の誠実さと個性を保つことが出来る。そうすれば、自分にふさわしく、顧客に役立つかたちで、ビジネスやチームを運営しやすくなる。

アイデアの最小バージョンで始める

ビジネスを始めるとき、人は間違ったことに力を注ぎがちだ。オフィス、規模、ウェブサイト、名刺、コンピュータといったものである。収入が得られるようになってから、支出を増やしたり、もっと大きなアイデアを加えたりするのはいい。しかし、アイデアを実行に移すのに最初から多くのお金、時間、リソースが求められるのなら、おそらくあまりにも早い段階で大きなものを考えすぎているのだ。今すぐ安くすばやくできるところまで規模を縮小してはじめ、それを繰り返すようにしたほうがいい。

あなたが売るものが顧客の利益につながるのなら、その顧客はあなたのビジネスから離れないだろう。ずっと顧客でいて、おそらくほかの人にも顧客になるようにすすめるはずだ。

顧客との関係を単に取引として考えていたら、もっぱらの関心は、どれだけの量をどれだけ頻繁に売ることが出来るかに向けられる。他方で、新規顧客との関係を実のある人間関係として育もうとすればするほど、また、顧客をどう手助けすればいいかが分かればわかるほど、相手が引き続き顧客でいてくれる可能性が高くなる。顧客の成功が、利益を生むカンパニー・オブ・ワンの土台なのだ。

人目につかないところで小さく始めるのは、このうえなく望ましいやり方である。経験を積み、ビジネスのアイデアを試すことが出来るからだ。それに、うまくいかなかったときの目撃者も少ない。小さく始めたときが、自分のビジネスがほんとうは何であり、なぜ特定の人たちにものやサービスを提供するのかを知る絶好の機会だ。知名度を上げようと無理に急ぐ必要はない。カンパニー・オブ・ワンを始めるには、今できることをするという考え方を受け入れる必要がある。

「必要なもの」としてリストアップしたものを、すべて揃えてからびじねすをば閉めることはできない。そんなことをしようと思っていたら、何も先にすすまない。それに、必要と思っているものがあっても、それはあなたがつくったものをほかの人が買って使うかなかで変わっていく可能性がある。ほんとうに「必要なもの」とは、それがなければアイデアがそもそも成立しないものだ。

いますぐにはじめられる規模にアイデアを縮小するということ、それはすなわち、手元にあるものを使い、自分の能力が及ぶ範囲でできることをして、すぐに人の手助けをするのに集中するということだ。影響が及ぶ範囲は、場合によっては業界全体にまで広がることもある。小さなさざ波が巨大な波に分かるのだ。基本的に、一つ一つのプロジェクトで、それに最も適した者が意思決定を行う。

第五章 なんのためのビジネスか

カンパニー・オブ・ワンとして成功するには、ビジネスの根本にほんとうの目的がなければならない。どうしてそのビジネスをするのか、それが重要なのだ。目には見えないその目的が、つねにビジネスを動かす。目的は、ウェブサイト上の響きのいいミッション・ステートメントに書いてあることだけではない。あなたの会社がどう行動し、どう自社を表現するのかを決めるものだ。そして、それは、ときには利益よりも優先される。

目的は、大きなものから小さなものまでビジネスの上の意思決定をすべてフィルターにかける。誰と仕事をするのか、何を提供するのか、時間とエネルギーをどこに集中させるのか、顧客はだれなのかを考える際の軸になる。

ビジネスが自分の目的と完全に一致していれば、厳しいときでも根気よくそれをつづけられる。人の入れ替わりも少なくなるだろう。従業員は、仕事に行く時に自分の価値観を家に置いて出る必要がないからだ。顧客もずっと離れずについてくる。

目的を定義するのは、ビジネス・プランやマーケティング戦略ではなく、あなた個人の価値観や倫理観だ。目的をだっちあげことは出来ない。あなたの本能と顧客がそれを許さないはずだ。そもそもそんなことをする意味もない。自分の目的にかなったビジネスをすることで、はるかに大きなよろこびと満足感を得られるのだから。あなた自身が自分の目的と深い結びつきを感じていなければ、ほかの人がそれを感じることもない。

正しくなければ「情熱」は役に立たない

目的と情熱はまったくの別物だ。問題解決や何かの改善に集中していれば、情熱はあとからついてくる。情熱を持てる仕事をただ夢見ているのではなく、実際に仕事をしているからだ。

私たちは職人になる必要がある。会社とその顧客の役に立つために、スキルを磨くことに集中するのだ。職人の考え方を持っていれば、自分が世界に提供できるものに集中していられる。他方で情熱を中心に据えていると、世界が自分に提供してくれるものにもっぱら関心が向いてしまう。

やりがいのある仕事をすることから情熱が生まれるのであって、その反対ではない。

やりがいのある仕事は、4つの重要要素からなる。①明確に定義された職務、②自分がうまくできるタスク、③成果のティードバッ、そして④仕事の自律性だ。

ほとんどの人は、行き当たりばったりに新しい分野に飛び込んだわけではない。最初に小さくジャンプしてみて、着水できて(つまり十分な需要があって)溺れることがないと確認したうえで飛び込んでいる。

1990年代に関連するスキルもなく最初にビジネス・コンサルティング事業を始めようとしたときには、顧客からの反応がほとんどなかった。私は若くて世間知らずで、いくつかのウェブサイトのデザインを手伝っただけでビジネスの仕組みを理解したと思い込んでいた。ただ、ウェブサイトのデザインをするよりもコンサルティングのほうがはるかにおもしろいと思ったので、勇気を出してそのサービスを売りこもうとしたのだ。問題は、私はデザイナーとして駆け出したばかりで、ほかの会社にコンサルテイングを提供するのに必要なスキルをまったく備えていなかった点にある。

どのような仕事でも、やりがいのあるものになりうる。情熱は成功を生む触媒ではなく、成功した後に生まれることも多いのだ。行動を起こして仕事をし、最初の勢いをつける。この勢いは、まだ見ぬ仕事の成果からではなく、仕事のプロセスに没頭してそれを楽しむことによって得られる。ごみ収集からコーヒー販売まで、大富豪へのコーチングから大企業内でカンパニー・オブ・ワンとして働くことまで、どのような仕事にもやりがいは持てる。

仕事における情熱は、まず価値ある一連のスキルを身につけ、仕事に精進することから生まれる。これはうれしい知らせだ。隠されたほんものの情熱を探し求める必要はなくなり、ただ仕事をしていればいいのだから。

目的に合った仕事の時間割を作る

最後に、カンパニー・オブ・ワンの考え方を採用するには、押し寄せてくるチャンスと義務の重みに対処することを学ぶ必要がある。収入と従業員が増えれば会社は良くなるのか、それともただ規模が大きくなるだけなのか、それを問う必要があるのと同じで、スケジュールびっしりの忙しい生活がいい生活なのか否かも問わなければならない。チャンスは魅力的な仮面をかぶった義務にわかならない。

チャンスをつかむことでプラスの効果もあるかもしれないが、それはつねにコストがともなう。時間、注意力、リソースを咲かなければならないからだ。と゜れだけがんばっても、一日の時間を増やすことはできない。時間を増やすことが出来ないのなら、時間を有効に使う道を探る必要がある。

興味深いことに、1950年代まで「プライオリティ」ということばはつねに単数形で使われていた。のちに、マルチタスクがいいことだという誤った考えが根付いていき、「プライオリティ」は複数形でも使われるようになる。マイクロソフト・リサーチの研究によると、同時に二つ以上のプライオリティに集中しようとすると、生産性が40%も下がるという。これは徹夜をしたときと同じダメージだ。

生産性についていうと、主な違いはモチベーションの勢いにあるという。チームで仕事をしているとプロジェクトのなかで自分の仕事をやり遂げるために、自然とほかのメンバーとのなかで働くことになる。そうすることで、自分の仕事に集中して物事をすすめようという気持ちを保つことが出来る。他方で、チームや従業員を抱えないカンパニー・オブ・ワンとして働く場合は、仕事をやり遂げるための勢いとモチベーションを自分で生み出さなくてはならない。スケジュールを決め、やらなければならない仕事を管理し、気をそらさないようにすることは、自分自身にかかっているのだ。

カンパニー・オブ・ワンは「シングル・タスク」の達人にならなければならない。つまり、気をそらされることなく、ひとつのことを長時間続けられる必要がある。そうすることで、必要なタスクに集中でき、それを速く、ストレスも少なくこなすことが出来る。カリフォルニア大学情報学部のグロリア・マーク教授によると、作業が中断するたびに、それを完全に再開するまだに平均23分15秒かかるという。邪魔が少なければ少ないほど、スピーディに仕事をこなせるのだ。

あなたの種瀬間を求めてくる人に、何ができて、何ができないかをはっきり告げることが重要になる。

ほとんどの人は、日々の仕事のメンテナンスにどれだけ時間がとられているかわかっていない。だから、年に1、2度、生産性をチェックするようにすすめている。1、2週間、どのタスクに取り組み、どれだけ時間がかかって、何に注意をそらされたかを記録するのだ。この記録をもとに、時間をもっと適切に配分しなおしたり、「やめること」リストをつくったりできる–ソーシャルメディアを控えたり、毎日のミーティングをやめたり、チェットに応じるのを1日1時間にしたりといった具合だ。

この問題を解決するために、わたしは毎年数か月、インタビュー、電話、会議を入れないようにして、邪魔されることなく新商品の開発や本の執筆に集中している。コミュニケーションを断ち、ほかの人に時間を割かれないようにすることで、集中して深く仕事に取り組むことができて効率が上がるからだ。それに、似たようなタスクにまとめて取り組むことで、短い時間で多くの仕事をこなせるようになる。

カンパニー・オブ・ワンは、自分でスケジュールを管理し、どれだけ働くかを決める。そういう環境では、タスクを大量に抱え込むことになりかねない。スタンフォード大学のの研究者、ジョン・ペンカベルによると、身体面で生産性を図ったとき、労働時間が週に55時間を超えると集中力が劇的に下がる。つまり、55時間を超える仕事をスケジュールに入れると、もはや生産的ではなくなるわけだ。いつも忙しく働いているという社会的な名誉の印は、自慢の種になるほかには何のメリットもない。自慢するなのなら、いかに仕事を速く生産的にこなせるかを考えて、それを誇るべきだ。成功のために大量の仕事を抱え込むと、健康や人間関係、さらには生産性まで犠牲にしかねない。おそらく、自分のスケジュールにとって何が”十分”かをはっきりさせ、断固としてそれを守ることが必要なのだ。

第六章 「個性」を隠さず顧客と結びつく

私が変わったのは、徐々に自分自身をさらけ出すのが兵器になり、ほかとは違う自分の特徴を戦略的に活用できるようになったことだ。個性、つまり本物の自分は、従来のビジネスまでは「プロ意識」の名のもとに押さえつけられてきた。 しかし、カンパニー・オブ・ワンにとっては、これが競争における強みになる。しかも、スキルや専門性は再現できるが、あなたの個性やスタイルをほかの人が再現するのはほぼ不可能だ。とくにあなたがカンパニー・オブ・ワンで。その分野で最大のプレーヤーではなく、値段もいちばん安くないのなら、個性を活用して抜きんでることが、まさに顧客の注目を集める武器になる。

あなたのブランドがにじみださせたいのは何だろうう。強さ? 洗練? 興奮? 誠実さ? 贅沢さ? 有能さ?

会社を小さいままにしておけば、自分が品質を重視し、みずから力を尽くしていることを社員と顧客に知ってもらいやすいと気づいた。

ブランドの個性を「芝居を打つ」ことと混同してはいけない。ターゲットとなる顧客が魅了されるかたちで、ありのままの自分の色々な面を示すということだ。ほんとうに質のいい製品をつくるということにいつも集中してきたので、会社も個性のその側面を外に向かって示すことに力を注いでいるのである。

情報だけでは退屈になる

新しい「通貨としての注目」は、産業革命以降の世界の変化から生まれたともいえる。かつては売り手がすべてのルールを決めていたが、いまは買い手が何を、どのように、いつ欲しいかを決める。そして、売り手に対して不満があればインターネットでそれを表明し、ときには売り手よりも大きな影響力を持つ。

鍵になるのは退屈にならないようにすることだ。情報はすぐに忘れられたり興味を失われたりするが、強い感情はなかなか忘れないからだ。

これをするには、あなたにもともと備わる個性や変わったところを一部、ビジネスに反映させればいい。

マリー・フォルレオから受けたインタビューでサリーは、大企業のなかでバニラ・アイスになる傾向について語っている。大企業は、みんなに受け入れられるはするが面白味のない個性を打ち出しているわけだ。カンパニー・オブ・ワンの場合は、バニラでいたいならあなた自身の仕事も目立たない。カンパニー・オブ・ワンは、市場の中でピスタチオ・アイスクリームになる必要がある。良くも悪くも、人はピスタチオが大好きなのか、その不気味な緑色と風味が大嫌いなのかのどちらかだ。忠実なファンは、ピスタチオ・アイスクリームがあれば目をとめ、注目して、値段が高くても買う。

「中立」でいると高くつく

とくにビジネスや生活がかかっているときに、線を引くのは恐ろしいことだ。線を引けば、特定の人たちやある集団全体をたちまち排除することになる。しかし、立場を決めることは重要だ。そうすることで、あなたと同類の人、集団、飛脚の目にとまるようになるからだ。あなたが自分の考えを旗のように高く掲げていれば、人はそれを見つけて集まってくる。あなたのものの見方を示すことで、現在、未来の顧客は、あなたがただ製品やサービスを売るだけではないとわかる。あなたはそれを特別な理由のために売っているのだ。

旗として掲げるものは、あなたの仕事の背後にある価値観や意味と一致するものだ。大胆に打ち出すことで、それは無視できないものになり、あなたの仕事はただの仕事ではなく、真剣な理由があってはじめてたことが伝わるのである。

第七章 一人ひとりの顧客がすべて

従業員やオーナーがわざわざ親切にしてくれるとうれしいものだ。人間同士のつながりが感じられたり、会社が問題を認めて無理をして解決してくれたりすると、とても記憶に残る。

顧客満足を25年間研究してきたルビー・ニューウェル・レグナーは、企業に不満の声を伝える顧客はわずか4%にすぎないし言う。不満を持った顧客の91%は二度と戻ってこないだけだ。あらゆる代償を払ってユーダーを増やそうとするのをやめ、今いる顧客を維持し、よろこばせ、手助けするのに集中すべきだ。長期的には、このアプローチはコストを大幅に低く抑え、あなたの会社にはるかに大きく役立つ。

カンパニー・オブ・ワンは、人に奉仕するビジネスだ。大切なのは顧客一人一人の声を聴き、サービスのレベルに満足してもらって、それぞれが成功を収められるように責任を引き受けることである。人がお金を使う先を選ぶとき、カスタマーサービスはきわめて大きな差別化要因になる。顧客の役に立つことができれば、ひの顧客はあなたの会社のブランドを他にも広めてくれる。ようするに無償の営業陣ができて、、スタッフをさらに雇わなくてすむわけだ。

現在のカスタマー・サービスの波は、感情と容易さに焦点を合わせている。これはすべてのカンパニー・オブ・ワンが提供すべきカスタマー・サービスであり、一部の組織はすでにそれを実践している。マッキンゼーの調査によると、70%の購買体験が、具体的な商品よりも顧客の感情に元津急いてなされている。ずば抜けていい扱いを受けたと感じると、二度目の購入や更新をしてもらいやすくなる。

スモール・ビジネス・トレンズの調査によると、新しい取引のうちなんと83%が口コミの紹介によるものだ。

紹介が効果を発揮するのは、「代理による信頼」の上にそれが成り立っているからである。話している相手を信用しているから、企業や商品にもたちまち信頼を抱くわけだ。

大事にされた人が、ほかの人にもあなたのことを話す

フォレスター・リサーチのケイト・レゲットによると、顧客に満足してもらい、顧客の成功を助けると、顧客離れが減ってリピート客になってもらえる可能性が高くなる。さらには、新しい顧客を獲得するのにも役立つ。ようするに、あなたの顧客が勝利すれば、あなたも勝利するのだ。実のところ、あなたのビジネスに利益がでていようがいまいが顧客は気にしない。— しかし、顧客が利益を出せるように手助けすれば、その人たちはあなたのもとを離れなくなる。顧客を個人として助けるには、ものを売るだけではなく共感と心づかいも求められる。顧客とそのニーズを理解して、効果的にそれにこたえられるようにする必要があるのだ。

顧客のニーズ、望み、モチベーション、欲求を理解すればするほど、顧客の気持ちになって感じることができ、客によりよく奉仕できる。この種のカスタマー・サービスは「お客様は大切です」という単なるリップサービスとは異なる。具体的な行動をともなうカスタマー・サービス、耳を傾けて理解に動くという戦略を実行に移すカスタマー・サービスだ。

共感はヒッピー的(1960年代に台頭した反体制的な若者たちのサブカルチャーを指します。ヒッピー文化は平和、非暴力、愛、自己表現、環境保護、共同体主義などの価値観を強調しました) ライフスタイルの弱小非営利的ビジネスのためのものだという誤解が広く見られるが、実は本当の利益を生むのに最も役立つツールである。

共感を持って顧客を扱うための第一のステップは、顧客のニーズに耳を傾けることだ。そこから得た情報を使えば、イノベーションや新しい商品アイデアをあと押しできる。マサチューセッツ工科大学(MIT)のエリック・フォン・ヒッペルが示す数多くの研究成果によると、利益につながる企業内のインベーションの多くは、顧客から生まれている。その割合は60%を上回る。

顧客を理解するには、サポート・リクエストにひときわ優れた対応をするだけでなく、寄せられる質問やリクエストの種類について、より大きなイメージを持っておくことが求められる。カンパニー・オブ・ワンでも、各リクエストの全体的なテーマを認識し、のちにデータとして使えるようにパターンとヒントをつくってそれに対処することが重要だ。すべてのフィードバックと提案を一か所にまとめることでねパターンを見るといい。たとえば、サポート・リクエストが特定のテーマに集中していたら、それについてユーザーにあらかじめ情報を提供しておいたほうがいいかもしれない。また、特定のテーマについて、いくつかのリクエストが繰り返し寄せられるようなら、おそらくそのテーマは、次のユーザー主導イノベーションの出発点になる可能性がある。

取るに足らない「小さすぎる顧客」はいない

企業が顧客を人格のない注文や取引として見ていると、その関係は劣化し、最低限の支出でどれだけ顧客からお金を引き出せるかにもっぱら目が向くことになる。しかし、顧客との関係を相互に利益のある長期的な関係としてとらえる企業は、顧客が成功したときに成功する。顧客の成功を運任せにしない。

顧客が助けを求めているとき、その根底にある理由は必ずしも明確ではない。具体的な答えを求めているときもあるが、自分たちで意識しないまま何かを求めていることもある。たとえば、私がウェブ・デザインの仕事をしていたとき、クライアントからは、見栄えのするサイトを作って欲しいとよく言われた。しかし、そのうち気づいた。ほとんどの顧客は、見栄えのするウェブサイトが欲しくてわたしに仕事を依頼していたのではなかった。顧客が本当に望んでいたのは、見栄えがするのと同時に、さらなる収入を生むサイトだった。

顧客は完璧を求めてはいない

まちがいへの対象

起こるかどうかではない。いつ起こるかの問題だ。どのビジネスでも多くのパーツが動いていて、顧客との接点がたくさんあり、通常は数少ないサプライヤーやパートナーに依存しているので、ときに間違いが起きる可能性があり、実際に起こる。なんとしてでもまちがいを避けようとしたり、まちがいなど怒らない在りをしたりするのは、現実的な戦略でない。より現実域なのは、まちがいが起こったときのためのプランを用意しておくことだ。

たとえそれがほかの人によって引き起こされたものであっても、自分の過ちを認め、人から非難される前に自分で責任を取らなければならない。第一のステップは、謝罪することだ。企業広報のロボットのような調子ではなく、感情のこもったほんものの人間として謝る。顧客は完璧を求めてはいない。問題が起こった時に公正に、心を籠めて、すばやく対処してくれることを望んでいるだけだ。

誤りを認めることには強力な効果がある。それは、問題を見つめる姿勢、改善への意欲を示す。

カンパニー・オブ・ワンは、苦情を改善のチャンスに変え、苦情を活用して熱心な顧客との関係を密にする。苦情に耳を傾けず、苦情を理解しない企業は、危機に直面しかねない。

「約束を守る」ための戦略

企業が約束を守るにはどうすればいいのか。また、これほど多くの企業が約束を守れずにいるのはなぜか? 第一の戦略は、顧客に対する約束の数を減らして質を高めることだ。「約束は小さくして期待よも大きな成果を出す」べきだと考えている企業は、期待通りの成果すら出せないこともある。第二に、経営陣の約束を記録に残すことで、約束したあとの経過を追跡する必要がある。それをしない企業は最初の約束が仲だったかすぐに忘れてしまいかねない。最後に、約束を果たすための実際はの手段が整っていなければならない。そのような手段はいまの時点では必要ないと思っていると、約束を破ることにつながる。これら3つの戦略に焦点を合わせることで、企業は顧客との約束をよりよく果たす術を学ぶことができる。約束を破ると、その影響は外に向かって広がっていく。宇宙が広がり続けているのと同じだ。ひとりのクライアントや仲介者との関係が゛ためになるだけでなく、彼らの知り合いすべてと仕事をするチャンスも失うのだ。

第八章 小さいままで多くの人に届ける仕組み

規模の拡大を疑問視し、規模に異議を申し立てるのがカンパニー・オブ・ワンだが、全体の目的と一致するときには、規模の拡大が必要なこともある。とはいえ、利益、顧客、勢力範囲の拡大が必要なとき、カンパニー・オブ・ワンは、さらなる従業員やリソースは必要としない単純で繰り返し使える仕組みに目を向ければいい。

年商1000万ドル近くの企業であるにもかかわらず、チームは小さいままだ。経営とマーケティングを担当するマーシャルとジョンのほかに、業務部長がひとり、サポート・スタッフが4人(うちあたりはパートタイム)、最高財務責任者(CFO)がひとり、ソフトウェア開発者がひとりいるだけだ。さらに人手が必要なときには、フリーランサーを使ったり業務委託をしたりして外注する。社内で人を抱えた方が安くつく段階になるまだ人は雇わない。

ブランドと工場の望ましい関係

作家のナオミ・クラインはグローバリゼーションは、劣悪な労働環境、低い賃金、不当な扱いなど、労働にマイナスの影響を与えると論じる。人間よりも利益の拡大を優先する道徳的にいかがわしいグローバル・ブランドから人が離れつつある。そして、この運動が、ビジネスをもっとスローで小さなものにしたり、オンデマンドにしたりして、あらゆる意味でより、”公正”なものにしていくだろう。

オンラインとオフラインを効果的に切り替える

独立して働いているからといって、必ずしも自分一人で働いているわけではない。仮にあなたのカンパニー・オブ・ワンがあなた一人の組織でも、業務委託先からパートナー、クライアントまだ、ときにはほかの人と連携する必要がある。もしあなたのカンパニー・オブ・ワンが組織内の小さなチームだったら、さらなる連携が必要だ。しかし、連携は諸刃の剣である。テクノロジーによって、リアルタイムで簡単にほかの人と結びつくことができるようになったが、そのせいで集中して深い仕事に取り組むことがむつ図化しくなっているからだ。

知っていることはすべて教える

カンパニー・オブ・ワンとしてほかから抜きん出て顧客を獲得するには、競争相手よりも規模を大きくするのではなく、競争相手よりもたくさん教えてたくさん共有しなければならない。この方法をとれば、プラスの効果がいくつか得られる。

第一に、あなたのことを教師だと考える人たちと関係を築くことで、その分野の専門家とみなされるようになる。あなたがインターネット関係の法律問題についてニューズレターで毎週情報を提供していたら、読者はあなたの見識を信頼する。
第二に、あなたが売っているものの強みを示すチャンスができる。たとえば、あなたが電気自動車を売っているなら、その利点、ガソリンを買わないですむことで、一年間にどれだけ節約できるか、ガソリン車より、なぜ、またどれだけ安全か、どれだ環境にやさしいか、などを説明する事ができる。過剰に売り込むことなく、あなたから買うべき理由を示すことができる。ただ、相手が必要とする情報を誠実に、説得力を持って、役に立つかたちで提供しその商品を購入するのがいいことか否かを相手に判断してもらうのだ。
第三に、新しい顧客に製品やサービスの最適な使用法を教えたり、最善の活用法やそれを利用して最も成功する方法を示したりすると、彼らが長期的な顧客になり、いい経験をしたことをほかの人にも話してくれる。
つまり、
情報を教えることがカンパニー・オブ・ワンにプラスになる理由の最後の理由は、一部の機密情報(まだ実行していないアイデア・ビジネス戦略、特許になるテクノロジーなど)を除いて、ほとんどのアイデアやプロセスは厳重に隠しておく必要がないからだ。

ほぼすべての領域で透明性を確保し、公明正大に会社を営んでいれば、もっぱら顧客との信頼を築く手助けになる。

アイデアは隠すより共有して実現したほうがいい

こんなことを言う人に、これまでたくさん会ったことがあるのではないか。「わたしは[Amazon, Google]のアイデアを、その会社ができるずっと前から持ってたんです」—わたしがお金持ちになっていないといけないんですよ!」しかし、アイデアは通貨として有効ではない。ビジネスでは、実行のみが唯一有効な通貨だ。

これはかなり異論の多い主張だと思われるので、説明を加えておきたい。アイデアだけでは価値がないのは、それが実行の外側にあるからだ。たとえばわたしは、規模の拡大を疑問視するというアイデア自体は長年、興味を持つ人みんなとニューズレターやポット゜キャストで共有していた。しかし、著作権のある本でアイデアを共有るすのは、それとは異なる。著作権の目的はアイデアを守ることにあるわけではない。(規模の拡大を疑問視するというテーマについても、もっとたくさんの人が本を書いてくれたらうれしいし、わたしはそれを応援する)。つまり、この本の具体的なことばや流れを作り上げるのにかかった何か月分もの調査と執筆の部分を守るのが著作権である。知的所有権を保護するのは重要だが、一般的なアイデアを守るのは重要でしない。アイデアしかないのなら、まだ仕事をしていないということだからだ。